備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

【短評】陳怡禎『台湾ジャニーズファン研究』(青弓社ライブラリー、2014)

 ずっと読みたかった本だったが、ようやく読了した。本書は東京大学大学院学際情報学府に提出された修士論文が元になっているという。「東アジアのポピュラーカルチャー」がテーマの私の学部ゼミでも、必読文献として推薦したい。

 本書の構成を簡単に記しておくと、序章「「哈日」する台湾女性」、第1章「台湾のファン文化」では、台湾における日本の流行文化・アイドルの受容史がまとめられる。最も多く紙幅が割かれる第2章「ジャニーズファンの日常」以降で、著者がインタビューや参与観察を通じて知り得た台湾のジャニーズファンの日常生活が明らかにされる。第3章「ファンたちが求めるジャニーズアイドルの関係性構図」では、台湾のジャニーズファンがジャニーズのメンバー同士の友達関係に興味を持ち、「J禁」と呼ばれるボーイズラブにも似たカップリング創作を行うことが論じられる。第4章「ファン同士の関係性――女性たちの友情の求め方」では、女性ファン同士の関係性を分析し、それがハーバーマスの言う「公共圏/親密圏」の二分法を超えた、「広い/狭い」の両方の性格を持った親密圏を構築していることを論じる。第5章「男性アイドルの「友情」を媒介につながる女性たち」は本書の内容のまとめだ。

 社会調査やファン研究のよき見本として、学生たちには薦めたい。その一方で、台湾というフィールドの特性を踏まえた研究になっていたか、といえば少し疑問が残る。序章では、主にテレビドラマの側面から、台湾において連続ドラマ、ひいては日本ドラマが受容されていく(あるいは下火になっていく)流れを論じている。だが、アイドル文化はテレビドラマのみを通じて流通するものではないだろう。また、日本文化はテレビ以外でも、流行歌を通じて台湾に浸透していた。1972年以後の日華断交以後、テレビ番組はもとより日本映画も公開されない時代が続いたのは事実だ。が、水面下で日本の流行歌は台湾に流通し、台語・国語双方の日本曲カバーも盛んに行われて来た。そうした流れと「哈日」はどのような関係にあるのか、言及があってもよかったと思う。

 少し前に、中国からの留学生が中国におけるジャニーズファンについて発表するのを聞いたことがある(それも修士論文に基づく発表だった→こちら)。その発表に比べると、歴史的背景はちゃんと押さえられていたとは思う。だが、その中国についての発表のほうが面白かった部分は、ジャニーズファンのヒエラルキーの具体的な様相だった。インターネット上のコミュニティを通じて規定されるそのヒエラルキー、台湾においても同様なのかどうか、知りたかったところだ。

 もう一つ気になったのは、「J禁」について。そもそも日本において始まった、ボーイズラブ的二次創作。日本と比べて台湾のほうが盛んであるかどうかもはっきりしないが、もしそうであるならば台湾の特殊性を考慮にいれるべきではないだろうか。台湾の研究ではボーイズラブを「 ク ィ ア ・ マ ン ガ ( q u e e r c o m i c ) 」 と 見 なすことが多いという(こちらを参照)。その是非については議論はわかれるだろうが、セクシュラル・マイノリティへの理解が相対的に高い台湾でクィア文学が盛んに創作されていることと、この「J禁」と関連しているのかどうかについても言及して欲しかった。

 セクシュアリティと同時に、台湾ではエスニシティの複雑性についても広く認識されるようになり、原住民の権利も認められるようになってきている。ジャニーズファンを分析する際に、このエスニシティ、あるいは地域性の問題は考慮しなくてもよいのだろうか。特に日本に対するイメージはエスニシティによって異なる可能性があるのではないか。著者はこのジャニーズファン・コミュニティを地縁・血縁を乗り越えるものとして捉えているのかもしれないが、はじめからそのような要素を捨象してしまっているように見受けられるのは、やや物足りない点だった。

 ないものねだりの注文を書き連ねることになってしまった。とはいえ、他に類書がなく、このテーマに興味を持つ人にとつては必読本であることには変わりはない。著者の次の研究も心待ちにしたい。

 

台湾ジャニーズファン研究 (青弓社ライブラリー)

台湾ジャニーズファン研究 (青弓社ライブラリー)

 

 

 

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[1]長篇小説――邱妙津『ある鰐の手記』 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 1)

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[1]長篇小説――邱妙津『ある鰐の手記』 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 1)

 

 

 

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[2]中・短篇集――紀大偉作品集『膜』【ほか全四篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 2)

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[2]中・短篇集――紀大偉作品集『膜』【ほか全四篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 2)

 

 

 

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]小説集――『新郎新“夫”』【ほか全六篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 3)

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]小説集――『新郎新“夫”』【ほか全六篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 3)

 

 

 

 

 

フーガ 黒い太陽 (台湾文学セレクション)

フーガ 黒い太陽 (台湾文学セレクション)

 

 

 

東大院生。僕、ジャニ男(ヲ)タです。

東大院生。僕、ジャニ男(ヲ)タです。

 

 

 

広告を非表示にする