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主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

【映画】阿嬤的夢中情人

『阿嬤的夢中情人』2013・台湾/台北・絶色影城/鑑賞日 2013.03.21./星4.5

 台北・西門町で鑑賞。『一万年愛してる』の北村豊晴と、蕭力修の共同監督作品。「台湾のハリウッド」北投で撮影されていた、60年代台語映画の栄光と没落にオマージュを捧げた映画。実に素晴らしい。今は年老いたかつての脚本家と、痴呆症を患うその妻が、かつて台語映画界でいかに活躍したのか。当時の台語映画界の粗製濫造ぶりがややデフォルメされながらドタバタ喜劇仕立てで描写される。もちろん、すぐれた映画もあったことが映画中では示されるのではあるが。

 映画中では、台語片といっても、台語がうまく話せない外省人俳優がいたことも描かれる。また実際に日本人も台語片に監督して関わった事実があるのだが、この映画中では、映画のスタッフとして日本人が登場する(北村監督自身が演じる)。その他、ディテールも含め、うまく作られている。台語スパイ映画にもオマージュが捧げられ、スパイ同士の暗号が、愛の誓いの台詞へと換骨奪胎される。そして、その台詞は現代の場面でもうまく使われる。

 洪一峰による台語歌謡の傑作「思慕的人」「寶島曼波」、台語映画『大俠梅花鹿』『小姑娘入城』、そして『第七號女間諜』などがこの映画の直接の参照元。『大俠梅花鹿』は台湾ではDVDも発売されているので、鑑賞前に見ておくといいだろう。洪一峰についても、近年トリビュートアルバムやドキュメンタリー映画『阿爸』(ciatrでレビュー済み)も作られている。

 難を言うと、北村監督が時折過度に日本風と思われるギャグセンスを発揮するところ。台湾映画へのトリビュートなのだから、日本のお笑い風味はもっと抑えたほうがいいのではないか、と思った(か管見の限り台湾のブログなどではそのような反応は見当たらない)。

 国語普及政策を推進する政府の圧力により、生命力が失われていった台語映画。だが、政治の後ろ盾がない中で、売れる映画を作るために様々な創意工夫もあったことも事実であろう。時を経てこのように大々的に再評価され、その魅力の片鱗が一般にも認識されるようになったのは素晴らしいと思う。