備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

【映画】『妙極了 』

思い立って、ciatrに登録した映画をこちらにも登録していくことにする。ぽつぽつですが。

というわけで、第一弾。

『妙極了 』1971・台湾/台湾製DVDで鑑賞/鑑賞日 2012.06.18./星3.5

柯俊雄と甄珍の主演。007を想起させるオープニングテーマと『裏窓』風プロット。期待しすぎなければ楽しめる。

というのがciatrに書いたオリジナル原稿。最初なのでとりあえず短めに書いてみたのだろう。これだけでは寂しいので、 「台灣電影數位典藏及推廣計畫」のこの映画の抜粋動画を埋め込んでみる(ちゃんと出来るだろうか)。

【書評】郭強生『惑鄉之人』(台北:聯合文学、2012)

 「その年、李香蘭は台湾へ公演に来た」「その年、ブルース・リーはこの世を去った」などの惹句が裏表紙に記されている本書。また、小説の冒頭から、王羽、何莉莉、李小龍らの名前が続出する。中国/香港映画史に興味をもつ人間にとって、なんと面白そうな小説だろうか。そのような興味から、この郭強生による長篇小説『惑鄉之人』(台北:聯合文学、2012)を読み始めたのだが、いい意味で期待を裏切られたようだ。

 

 1984年の場面から、この小説は始まる。久しぶりに故郷(花蓮近郊であることが後で分かる)に戻ってきた小羅が、この町唯一の映画館の(この時既にストリップ小屋と化していた)吉祥戯院が壊されるのを目の当たりにするところから始まる。小羅の父(老羅)は映画館の看板描きであり、小羅は小さい時から映画のポスターを蒐集していた。

 

 このような書き出しにより、読者は『ニュー・シネマ・パラダイス』のような、古い映画に対するノスタルジーに溢れたストーリーがこのあと展開するだろうと予想するかもしれない。だが、小羅にとっての過去はノスタルジーの対象などではない。彼は映画と関わることによって人生の破滅を迎えたのだ。

 

 次に登場するのは2007年の場面。アメリカで育ち、アメリカ国籍の映画研究者・松尾健二は、台湾映画界にその足跡を残した祖父・松尾森のことを調査するため、台北に現れる。六〇年代に台湾で映画を撮影した数多くの日本人監督のリストの中に松尾森も含まれていたのだ。確認できる最後の彼の記録は、未完に終わった一九七三年の映画『多情多恨』であった。

 

 続いては1973年の映画の撮影時期に移る。ちょうどブルース・リーが死んだばかりの時期。抗日映画を撮るというので、この東部の町全体を日本統治時代の様子に飾り直す。ところが主役は台湾のスター俳優などではなく、日本人の新米俳優であった。実は日本映画を台湾との協力のもとで作成していたところ、日台断交により映画が上映できなくなり、いっそのこと監督や俳優が日本人であることを伏せて台湾映画として完成させようとしていたのだ。

 

 三部構成のうちの第一部「君が代少年」では、この三つの時代が交錯することにより、徐々に背景と謎が明らかになる。第二部「多情多恨」は、主に小羅と、第一部でもちらりと姿を表した、第二次大戦中の台湾人日本軍兵士の亡霊の視点によって彼らの過去が浮き彫りにされる。第三部「君への思いを絶たん」において、いよいよ松尾森の過去が明らかになる。彼は実は台湾生まれであり、台湾の少年に対して過度な思い入れを持っていたのだ…。

 

 以上で触れた登場人物以外にも様々な人物が登場するが、それぞれ台湾という土地にあってディアスポラ、あるいは根無し草の性質を有している。老羅は東北出身で軍とともに台湾へとやって来た外省人である。台湾人日本軍兵士の霊も、もはや帰るところはない。松尾健二も日米のアイデンティティに引き裂かれ、松尾森もまた台湾と日本の間で引き裂かれている。そのような、エスニックなアイデンティティの危機と同時に、ここではセクシュアルなアイデンティティの問題も浮き彫りになる。同性愛者に対する偏見が台湾においてもまだ深かった時代である。そしてエイズ少年愛あるいは年齢差性愛。

 

 このような問題が、この小説では台湾の歴史的・民族的背景と溶け合っているのが興味深い。台北、特に大稲埕の町並みなども実にうまくプロットに溶け込んでいる。また、1973年の場面において、外省人の小羅の友達として登場するのが、原住民の阿昌、そして本省人で養女として虐げられている蘭子。彼ら三人の関係は、楊雅喆脚本・監督の台湾映画『女朋友。男朋友』(第8回大阪アジアン映画祭において『GF*BF』として上映予定)の主人公たち三人の関係とよく似ている。が、ここではそのエスニシティがそれぞれ異なることもあり、より複雑な様相を呈する。戦前・戦中における歴史的出来事としては1941年の李香蘭台北大世界館における公演が描かれる。また1935年の台湾大地震の際に「君が代」歌って息を引き取ったとされる「君が代少年」の物語も重要なサブテクストとして小説に登場する。「内台共婚」を題材とする庄司総一の小説『陳夫人』(1940、1942)に言及されることも興味深い。ネタバレになるので詳しいことは省くが、デイヴッド・ヘンリー・ホアンの『M.バタフライ』が『蝶々夫人』に対する異議申し立てだとするならば、この小説は『陳夫人』に対する異議申立てといえるのではないだろうか。

 

 映画に関しては、『戦場のメリークリスマス』が重要な小道具として使われている。1970年代のアクション映画が、男性の身体に対する少年の性的欲求を喚起していることも興味深い。また、日本と台湾の映画交流史が(例えば日本と香港の交流史のかなりの部分が明らかになっているのと比べ)未解明の部分が多いことを逆手に取り、いかにもありそうな実在しない映画を捏造しているが、その際に引き合いに出されるのが深作欣二監督の知られざる日台合作映画『カミカゼ野郎 真昼の決斗』(1966)。それにより、この架空の映画の真実味を増すことに成功している。その他、川喜多長政の名が登場したり、台湾語映画の盛衰なども描きこまれてしていて、台湾映画史の知識があれば、この小説を一層楽しめることうけ合いである。

 

 小説の舞台となる東海岸の町は小説中「吉祥村」「吉祥鎮」と記されており、これは花蓮の南外れにあった日本人移民村、吉野村(現・吉安鄉)を意識したものであることは疑いない。吉野村は、その名から分かるように徳島県からの移民が多く、その他の西日本地域からも多くの人が移住したが、実は吉祥村で育った松尾森の引き上げ先は高知県の田舎であり、そのことも彼がルーツが徳島周辺の西日本にあることを裏付けている。

 

 この小説は、このように単にアイデンティティの危機を理念先行的に描こうとするものではない。様々なエスニシティを含み持つ台湾社会・台湾史全体を小説の中に溶けこませることで、台湾、そして日本、日台関係全体を俯瞰する壮大な物語となっているのである。

 

 著者の郭強生氏は1964年生まれ、国立台湾大学外文系卒業、ニューヨーク大学で博士学位を取得し、現在は花蓮・東華大学英米文学科の教授である。外省人で、父が台湾師範大学美術系教授で、映画の芸術指導も担当したことから、子供の頃から映画界と接触があり、よく李翰祥、胡金銓といった大監督の家にも出入りしていたという。他にも劇作や小説集を数多く出版しているが、未見。(映画をこれほどまでに中心的に扱ったものはないだろうが)他の著書も読んでみたい。

 

 最後に気になったこと。著者は、映画史についてはすべて真実を記したとしているが、いくつか気になったことがある。1960年から1970年までの間に台湾で撮影した日本人監督リスト(166ページ)に、三池崇史の名があるが、それはありえない。李香蘭の出演した映画を307ページでは『萬古流芳』としているが正しくは『萬世流芳』。川喜多が日本に持ち込んだとされる『花木蘭』(263ページ、307ページ)は『木蘭従軍』が正しい。「蘇州夜曲」の日本語歌詞が2回引用されるが、いずれもなぜかそこだけが中国大陸式の簡体字で記されているのは奇妙に感じた。

 

 この小説には、台湾に対して思い入れやコンプレックスを持つ複数の日本人が登場する。特に松尾森のような「湾生」日本人の問題は、日本の読者にも共有されてしかるべきだろう。また、李香蘭に関心があったり、中国・台湾・台湾香港映画に詳しい日本の映画ファンともこの小説を共有したいという思いもある。日本語訳を読みたいという声が多ければ、ぜひ翻訳を検討したいと思うので、声を寄せて頂ければ幸いである。

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版 [DVD]

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ニュー・シネマ・パラダイス [Blu-ray]

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陳夫人 (リバイバル「外地」文学選集)

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戦場のメリークリスマス [DVD]

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決定盤 李香蘭(山口淑子)大全集

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戦時日中映画交渉史

戦時日中映画交渉史

台湾映画―台湾の歴史・社会を知る窓口

台湾映画―台湾の歴史・社会を知る窓口

[2018年10月27日追記]
その後、この小説を日本語に翻訳し、あるむより2018年11月末に刊行の運びとなりました。

惑郷の人

惑郷の人

 

 

低俗喜劇

 どうも、ciatrにアクセスできない(リダイレクト ループが起きているとのこと…)なので、一日前に投稿したばかりだが、こちらに、映画の感想を投稿することにする。

 『低俗喜劇』香港・2012 香港製DVDで鑑賞(02/03)☆☆☆☆★

 『志明與春嬌』(2010)の彭浩翔監督作品。この監督は以前にも『AV』(2005)をとっており、まあアダルト・ビデオ~香港の三級片への興味は持っていたと思われるが。確信犯的に映画制作の裏側を揶揄しながら「低俗」を狙った映画である。悪くない。

 杜汶澤チャップマン・トー演じる映画プロデューサーが、資金繰りに困り、広西のヤクザの親分からお金をもらって映画を撮ることになるが、ヤクザの要求した映画のテーマとは1976年のショウ・ブラザーズのポルノ映画『官人我要』のリメイク(『官人我又要』)を、同じ女優・邵音音を使ってとること。プロデューサーは最新技術を使って顔だけ邵音音、体は若手女優に入れ替えることを思いつくが…。

 まあ、ナンセンスなギャグ(とシモネタ)に満ちた映画。邵音音は近年『打擂台』など、かなり多くの映画に出演しており、ここにも登場。最近の香港の事情を反映して、プロデューサーが大学で行う座談会には、大陸から来た学生と思しき普通話で質問をする学生もいる(杜汶澤も普通話で応答)。広西ヤクザが、お前の出自は、と尋ね、杜汶澤が客家だと答えると、客家語で罵るのも面白い(まるでシンガポール、マレーシア映画みたいだ)。

 日本人俳優・葉山豪が出演している他、日本のAVや、アダルトゲームも話題に出る。日本のポピュラーカルチャーというと、AV、ゲームというイメージが定着しているさまが、ここからも窺える。まあ、日本公開は、これは難しいと思うが、国際的な賞もいくつか受賞している(第49回金馬奨では広西ヤクザ役の鄭中基が、最優秀助演男優賞を受賞)。

 この映画のヒットを受け、実際に『官人我又要』も製作されるという話もある。もし完成したとしても、単なるポルノではないだろうし、それを期待したい。

2012年に見た映画のまとめ

 今年も早くも1月が終わり、もう2月に入ってしまった。ようやく時間的にゆとりが出来たので、昨年見た映画について、まとめておこうと思う。まずは、見た映画の一覧から。※ciatrの仕様変更で、鑑賞日ではなく登録日のみが記録されているため、一日ほどずれがある場合あり。

【2012年に見た映画一覧】

01/02 ブルース・リィの『大金塊』 闖禍[港]1979 DVD[日]

01/13 金門島にかける橋 [日・台]1962 CS録画

01/19 無言歌 夾邊溝[港・仏・白]2010 神戸アートビレッジセンター

01/20 非情のハイキック~黄正利の足技地獄~ 巡捕房[港]1980 DVD[日]

01/21 十八羅漢拳 [台]1979 DVD[台]

01/22 ダイナマイト諜報機関 クレオパトラカジノ征服 Cleoptra Jones and the Casino of Gold[米・港]1975 DVD[米]

01/23 夜と霧 天水圍的夜與霧[港]2009 DVD[港]

01/24 生きていく日々 天水圍的日與夜[港]2008 DVD[港]

01/25 北京樂與路[港]2001 DVD[港]

01/26 不能没有你[台]2009 DVD[台]

02/01 ヤクザガール 二代目は10歳 Дочь якудзы[露・独]2010 元町映画館

02/01 アフター・オール・ディーズ・イヤーズ[馬・中・日]2009 元町映画館

02/01 女人本色 女人本色[港]2007 CS録画

02/02 夏日假期玫瑰花[台]1976 DVD[台]

02/03 スパイチーム 神偸次世代[港]2000 CS録画

02/04 6AM 大無謂 6AM[港]2004 CS録画

02/05 新世界の夜明け[日・中]2011 元町映画館

02/05 柔道龍虎房 柔道龍虎榜[港]2004 CS録画

02/08 ジャンプ!ボーイズ 翻滾吧!男孩[台]2004 CS録画

02/24 黃金萬両[港]1965 DVD[中]

02/25 愛と死の間に 再說一次我愛你[港]2005 CS録画

02/26 マジック・キッチン 魔幻厨房[港]2004 CS録画

02/28 恋のQピッド 老夫子[港]2001 CS録画

02/29 運転手の恋 運轉手之戀[台]2000 CS録画

03/01 Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち Pina[独・仏・英]2011 TOHOシネマ西宮OS

03/05 太陽の帝国 Empire of the Sun[米]1987 DVD[日]

03/10 タタール大作戦 Tatar Ajillagaa[蒙]2010 シネ・ヌーヴォ

03/10 星空 星空[台・港・中]2011 シネ・ヌーヴォ

03/10 ドメスティック・バイオレンス[韓]2012 シネ・ヌーヴォ

03/10 変態、無頼、そしてその中間に挟まれた女 變態,無賴,與被夾在中間的女人[台・米]2011 シネ・ヌーヴォ

03/10 救命士[日]2011 シネ・ヌーヴォ

03/11 オクスハイドII 牛皮貳[中]2009 HEP HALL

03/11 父の子守歌 手機裡的眼淚[台]2012 梅田ガーデンシネマ

03/12 ビッグ・ブルー・レイク 大藍湖[港]2011 梅田ガーデンシネマ

03/12 LOVE 愛 Love[台・中]2012 梅田ガーデンシネマ

03/14 熊ちゃんが愛してる 熊熊愛上你[台]2012 シネ・ヌーヴォ

03/14 高海抜の恋 高海拔之戀II[港]2012 ABCホール

03/15 東京に来たばかり 初到東京[中・日] シネ・ヌーヴォ

03/16 セデック・バレ 太陽旗 賽德克·巴萊 太陽旗[台]2011 ABCホール

03/17 ナシレマ2.0 辣死你媽[馬]2011 シネ・ヌーヴォ

03/17 セデック・バレ 虹の橋 賽德克·巴萊 彩虹橋[台]2011 ABCホール

03/21 スター・ライナー 少年阿虎[港・韓]2003 CS録画

03/22 早安台北[台]1980 DVD[台]

03/23 歌王歌后[台]1970 DVD[台]

03/24 少年 小畢的故事[台]1983 DVD[台]

03/27 艷陽三月天[台]1977 DVD[台]

03/30 タンタンと私 Tintin et Moi[丁・白・仏・瑞・典] 元町映画館

04/11 果てしなき情熱[日]1949 DVD[日]

04/12 チャウ・シンチー マイ・ヒーロー 一本漫畫闖天涯[港]1990 CS録画

04/13 一江春水向東流[台]1965 DVD[台]

04/14 情熱の人魚[日]1948 東京国立近代美術館フィルムセンター

04/15 豔光四射歌舞團[台]2004 DVD[台]

05/03 決闘の大地で The Warrior's Way[米・韓・新]2010 テアトル梅田

05/03 新しき土[日・独]1937 テアトル梅田

05/03 捜査官X 武俠[港・中]2011 梅田ステーションシネマ

05/03 烈日女蛙人[台]1982 ビデオ[台]

05/04 ザ・プライベート・フィルム・オブ・デイヴィッド・ボウイ リコシェ Ricochet[米・英]1984 ビデオ[日]

05/05 香港パラダイス[日]1990 ビデオ[日]

05/06 ピーター・グリーナウェイ枕草子 The Pillow Book[英・仏・蘭]1996 ビデオ[日]

05/07 わが生涯のかがやける日[日]1948 ビデオ[日]

05/12 長巷[港]1956 ビデオ[台]

05/20 サザエさん 七転八起の巻[日]1948 神戸映画資料館

05/20 煉獄に咲く花[日]1953 神戸映画資料館

05/20 七彩の花吹雪[日]1953 神戸映画資料館

05/20 女体の放射能[日]不明 神戸映画資料館

06/04 不一樣的月光[台]2011 DVD[台]

06/05 孤戀花[台]2005 DVD[台]
06/15 素晴らしき大世界 大世界[星]2010 DVD[台]
06/16 妙極了[台]1971 DVD[台]
06/19 狙った恋の落とし方。 非誠勿擾[中]2008 DVD[日]
06/30 山東到香港[港]1975 VCD[港]
07/01 大阪のうさぎたち 오사카의 두마리 토끼[韓・日]2011 
07/08 阿爸[台]2011 DVD[台]
07/17 愛情一二三[台]1971 DVD[台]
07/22 チャイニーズ・ボックス Chinese Box[英・港・日]1997 DVD[台]
07/23 白夫人の妖恋[日・港]1956 CS録画
07/24 龍の忍者 龍之忍者[港・日]1982 DVD[日]
08/01 The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 The Lady[仏・英]2011 梅田ブルク7
08/03 血染海棠紅[港]1949 個人ビデオ
08/06 盗聴犯 死のインサイダー取引 竊聽風雲[港]2009 シネマート心斎橋
08/06 盗聴犯 狙われたブローカー 竊聽風雲2[港]2011 シネマート心斎橋
08/06 白蛇伝説 ホワイト・スネーク 白蛇傳説[港]2011 シネマート心斎橋
08/09 ミッドナイトエンジェル ~暴力の掟~ 第一類型危險[港]1980 DVD[日]
08/15 マクダルのカンフーようちえん 麥兜响噹噹[港]2009 元町映画館
08/15 王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件 狄仁傑之通天帝國[中・港]2010 元町映画館
08/28 画皮 あやかしの恋 畫皮[星・中・港]2008 シネマート心斎橋
08/28 かぞくのくに[日]2012 シネマート心斎橋
09/23 最長的一夜[港]1965 DVD[台]
09/24 情天長恨[港]1964 DVD[台]
10/29 木蘭従軍 木蘭從軍[中]1939 DVD[中]
10/30 亂世兒女[港]1966 DVD[台]
11/01 桃さんのしあわせ 桃姐[港・中]2011 梅田ガーデンシネマ
11/01 鶯歌燕舞[港]1963 DVD[台]
11/02 花木蘭[港]1963 DVD[港]
11/05 水上人家[港]1968 DVD[台]
11/06 母與女[台]1971 DVD[台]
11/19 春寒[台]1979 DVD[台]
11/20 楓紅層層[台]1975 DVD[台]
11/23 マジック&ロス Magic & Loss[日・韓・馬・港・中・仏・米]2010 DVD[日]
11/28 蕩婦心[港]1949 個人ビデオ
11/29 孽種[港]1981 ビデオ[台]
12/02 中国の鳥人[日]1998 DVD[日]
12/16 黑森林[港・台]1964 ビデオ[台]
12/17 鋪道の囁き[日]1935 DVD[日]
12/21 香港デラックス 千王情人[港]1993 ビデオ[日]
12/22 スージー・ウォンの世界 The World of Suzie Wong[英・米] DVD[日]
12/23 子供たちの王様 孩子王[中]1987 BS録画
12/24 アニタ・ユンの恋はあせらず 年年有今日[港]1994 ビデオ[日]
12/31 大魔術師Xのダブル・トリック 大魔術師[港]2011 シネマート心斎橋
12/31 最愛 最愛[中・港]2011 シネマート心斎橋
 
【2012年に見た映画10傑(近年のフィルム限定)】
1位 かぞくのくに
2位 無言歌
3位 桃さんのしあわせ
4位 ナシレマ2.0
5位 セデック・バレ
6位 生きていく日々
7位 新世界の夜明け
8位 捜査官X
9位 素晴らしき大世界
10位 オクスハイドII
 
うーん、こんなところかなあ。一年間に見た映画の数の割に、最近の映画をあまり見ていないので、いざ順位をつけようかと思うと、困ってしまう…。
 
1位ははじめから決めていました。テーマばかりが話題になるが、フィルムの中身も素晴らしい。2位から5位ぐらいまでは、ほとんど差がありません(というかどういう基準で順位をつけたらいいのか悩む)。
かぞくのくに [DVD]

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かぞくのくに ブルーレイ [Blu-ray]

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無言歌(むごんか) Blu-ray

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捜査官X [DVD]

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捜査官X [Blu-ray]

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瀬戸内寂聴の元夫と北京

(以下は、原資料にあたっておらず、とりあえずのメモです。また加筆します。)

 徳島に住んでいた頃、地元出身の作家・知識人と中国との関わりについて気になっていた。特に、瀬戸内寂聴(晴美)は、終戦間際に結婚して北京に住んでおり、彼女の文壇デビュー作「女子大生・曲愛玲」など初期小説の数篇は、北京での生活をモチーフとしている。

 日本への帰国後、彼女は夫の教え子と出奔し離婚に至るのだが、彼女自身夫の名を明らかにしていないこともあり、それが誰であるのかずっと知らずにきた。北京の輔仁大学で中国音楽を研究していた、という断片的な知識を除いては。

 だが、急に思いついてネット上を検索してみると、あるブログ記事により、あっさりとそれが誰であるのか分かってしまった。それがこのページ「瀬戸内寂聴の夫だった酒井悌国会図書館副館長」。このページにも紹介があるように、瀬戸内と同様徳島市出身の酒井は、1939年に外務省留学生として北京留学、国立師範大学を経て1944年に輔仁大学専任、1945年に北京大学、帰国後はずっと図書館畑を歩み、上野図書館長、国立国会図書館副館長などを歴任したようである。

 さらに検索してみると、これまで元夫の名は伏せられてきた、というのは自分の思い込みに過ぎず、幾つかの書籍ですでに瀬戸内の元夫として酒井の名が挙げられていることもわかった。

 ・板垣直子『明治・大正・昭和の女流文学』(1967)165ページに酒井の名がある模様。

 ・巌谷大四『物語女流文壇史 下』(1977)193ページに酒井の名がある模様。

 ・川西政明『昭和文学史 中巻』(2001)604-606ページに酒井の名がある模様。

 酒井が輔仁大学の前にいたのが(日本支配下の)北京師範大学だとすると、同校で教鞭をとっていた台湾出身の作曲家・江文也と交流はあったのだろうか。気になるところである。

 輔仁大学には民俗学者の直江広治や中国文学者の奥野信太郎も在籍していた。中国における直江について取り上げた王京『一九三〇、四〇年代の日本民俗学と中国』という本の中でも酒井の名は見られ、日本文学を教えていることが分かる。(中身はこちらで読めます(一番下までスクロール、第四章-3)→ココ)酒井の名は見当たらないが、永井英治「戦中期北京輔仁大学の日本人教員とその戦後-成立期新制大学の教員移動に関する試論」という論文もあり、関係者の回想などの資料も抑えてあるので有益だ(→ここで読めます)。酒井に関する記録もあるかもしれない。

  戦後の酒井の活動には「中国古代音楽史」に関する業績などはほとんど見当たらないが、唯一見つかったのだが、1955年の「京劇今昔話」『読書春秋』6(3)である(図書館畑では立派な仕事をされたようではあるが)。

 ついでながら、「女子大生・曲愛玲」のモデルとなった日本人の同性愛者の女教師についても、誰であるかが見えてきた。恐らく田村総という人。田村は『いきいき老青春(ラオチンチュン)』という本を1990年に上梓しており、自分と中国との関わりを振り返っているようだ。(注文したので詳細がわかり次第補足したい。)

瀬戸内寂聴全集〈1〉短篇(1)

瀬戸内寂聴全集〈1〉短篇(1)

白い手袋の記憶 (中公文庫)

白い手袋の記憶 (中公文庫)

寂聴中国再訪

寂聴中国再訪

明治・大正・昭和の女流文学 (1967年)

明治・大正・昭和の女流文学 (1967年)

物語女流文壇史 下

物語女流文壇史 下

昭和文学史〈中〉

昭和文学史〈中〉

いきいき老青春(ラオチンチュン)

いきいき老青春(ラオチンチュン)

 

トルストイ『復活』と中国語映画・演劇・流行歌曲

 あまり考えがまとまっているわけではないのだが、研究テーマの萌芽のようなものが浮かんできたので、とりあえずメモする次第。

 トルストイ『復活』と言えば、その名を知らぬ人はいない超有名小説だが、日本では芸術座により1914年に舞台化され、主演の松井須磨子らにより劇中歌「カチューシャの唄」が歌われたこともよく知られている。「カチューシャの唄」はレコードとしても発売されて大ヒットし、また1914年の『カチューシャの唄』『カチューシャ』など、日本では八度も映画化されているという。

 それでは、中国ではどうだったか(翻訳史などは省き、舞台化・映画化のみについて記す)。恐らく中国における『復活』の最初の映画化は、『良心的復活』(明星、1926、卜萬蒼監督)であると思われる。楊耐梅が主演の無声映画だが、実はこの映画は中国で最初の主題歌が付けられた映画なのである。そもそも当時は無声映画の上映時には伴奏が付けられるのが一般的だったが、この映画では歌の場面になるとスクリーンが上がり、劇中と同じ衣装を着た楊耐梅が登場し、伴奏者をバックにして歌を歌う、というものであった。彼女が歌った「乳娘曲」はレコードにも吹き込まれ、中国映画がレコード音楽と初めて接点を持つことになった。「乳娘曲」はここで聞けるが、「カチューシャの唄」とは異なり、西洋音楽の要素が少なく、中国の伝統演劇・音楽の雰囲気を多分に残したものでものであった。

 文明戯の時代に春秋劇社も『復活』を上演しているようであるが、話劇(新劇)の世界では、少なくとも二度『復活』を元にした同題の脚本が書かれている。執筆したのはそれぞれ田漢(1936)、夏衍(1943)という演劇界の大御所だった。田漢のバージョンは、当時南京で十日連続で上演され、連日満員であったという。この頃の田漢は、映画界にも深く関わり、映画の主題歌の作詞も多く手がけている。例えば、『風雲児女』の主題歌「義勇軍進行曲」は、戦争中歌い継がれ、ついには中華人民共和国の国歌の座を占めることとなった。従って、田漢版『復活』の特徴としては、カチューシャの目覚めと反抗に重点を置くプロットの他に、挿入歌が組み込まれた点も挙げられる。これは『回春之曲』などの当時の田漢の他の劇作とも共通する特徴だが、ここでは田漢作詞・賀緑汀作曲の「怨離別」「囚徒之歌」、田漢作詞・冼星海作曲の「茫茫的西伯利亞」などが使われた。なお、田漢は東京留学中に芸術座の『復活』上演を目にしている可能性が高く(小谷一郎「田漢と日本(一)―「近代」との出会い」『日本アジア研究』創刊号、2004、pp.93-94→http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/KY-AA11946779-4.pdf?file_id=1809)、劇中で歌を使うことは、そこからヒントを得たとも考えられる。

 一方、1943年に戦時首都・重慶で上演された夏衍版『復活』にも、歌が使われた。音楽を担当したのは盛家倫。映画『夜半歌声』で朗々たる歌声を聞かせた彼は、この時重慶で、文芸サロン「二流堂」メンバーとして夏衍と近しい関係にあった。盛家倫が『復活』のために作った曲は、やはり「二流堂」メンバーの漫画家・丁聡が仮歌を歌ったという→ここ。)

 さて、戦後の香港でも、『復活』を下敷きにした映画が幾つか作られる。香港電影資料館の館蔵検索によると、『復活』を改編した広東語映画には洪仲豪と高梨痕が監督し、白燕らが出演した『再生縁』(1948)、陳文監督、張瑛、芳艷芬らが出演した『復活』(1955)があるが未見。一方北京語映画では、岳楓監督、白光、厳俊主演の『蕩婦心』(1949)と、卜萬蒼監督、李香蘭・趙雷主演の『一夜風流』(1958)がある。『蕩婦心』については、すでにこちらにレビューを記した。五曲の挿入歌があるが、詳細は不明とした「嘆十声」の作曲者・黎平は、こちらによると、白光自身がこれは陳歌辛の筆名であると語っていたという。一方の『一夜風流』だが、なんとこれは卜萬蒼監督が『良心的復活』以来32年ぶりに手がけた『復活』リメイクである。日本から山口淑子李香蘭を招いて作ったこともあり、こちらも六曲の挿入歌が使われている。残念ながら香港電影資料館にもフィルムは保存されていないようであり、今日この映画を見ることは困難。挿入歌のうち、姚敏作曲・李雋青作詞の「三年」は、若旦那の帰りを待ち続ける思いを歌った歌詞であるが、今でも広く歌われている歌である。李香蘭が演じる葛秋霞Ge Qiuxia、趙雷が演じる劉道甫Liu Daofu、それぞれカチューシャと(ネフ)リュードフに音が似ているという芸の細かさも(下は私のコレクションより『一夜風流』特刊画像)。

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 というわけで、中国~香港でも『復活』はしばしば演劇・映画に改編されてきた。そして、その多くは歌曲とともに演じられる。『復活』の物語は抗日戦争や左翼思想と共鳴しただけではなく、通俗的なストーリーとして演劇、映画、そして歌曲といったジャンルと親和性を持つことが窺える。そしてそこには、日本における「カチューシャの唄』の流行も間接的に影響しているかもしれないのである。

<補記>ツイッター経由で1937年の劉吶鷗脚本、呉村監督の『永遠的微笑』(胡蝶主演)、1941年の梅阡監督『復活』(李麗華主演)もトルストイ『復活』の改編ないし影響下にある、という指摘をそれぞれ頂いた。『永遠的微笑』では胡蝶は歌手を演じており、当然映画の中では歌も使われただろう。一方、『復活』では李麗華は『小山歌』という曲を歌っており、CDなどでも聞くことができる。ネット上ではここで。

復活 (上巻) (新潮文庫)

復活 (上巻) (新潮文庫)

復活〈下〉 (新潮文庫)

復活〈下〉 (新潮文庫)

復活〈上〉 (岩波文庫)

復活〈上〉 (岩波文庫)

復活 下 改版 (岩波文庫 赤 619-8)

復活 下 改版 (岩波文庫 赤 619-8)

復活

復活

復活 [DVD]

復活 [DVD]

復活 [DVD]

復活 [DVD]

ペンと戦争―夏衍自伝

ペンと戦争―夏衍自伝

幻の重慶二流堂―日中戦争下の芸術家群像

幻の重慶二流堂―日中戦争下の芸術家群像

「李香蘭」を生きて (私の履歴書)

「李香蘭」を生きて (私の履歴書)

古い台湾映画2件

映画レビューサイトCiatrがリニューアルした。見た映画の感想は基本的にそちらに書いているのだが、リニューアル後しばらくは、データベースにない映画を登録できないようだ。そんなわけで、備忘のため、ブログに映画の感想を記すことにする。Ciatrに登録できるようになり次第、そちらにも入力することにする。

 

『春寒』(1979・台湾) 鑑賞日 2012.11.19. ★★☆☆☆

1979年の台湾映画。台湾製DVDで鑑賞。歌手の鳳飛飛が初めて映画に主演したもの。先日のシンポで(歌手としての) 鳳飛飛を研究したいという大学院生と知り合い、その流れで見てみたもの。(鳳飛飛の出演した映画は多くないが、何と言っても侯孝賢監督のデビュー作『就是溜溜的地』(ステキな彼女)、第二作『風兒踢踏踩』(風は踊る)に出演していたことは印象深い。)

 さて、のちに子供向け映画を撮る陳俊良監督によるこの映画、正直言って褒められたできではない。カルト映画として面白がる向きもあるようだが(http://so-hot.cc/detail/about/%E6%8A%97%E6%97%A5%E9%9B%BB%E5%BD%B1/result/4)、はっきり言って、くだらない抗日宣伝映画だ。舞台は太平洋戦争期の台湾であるが、台湾人のアイデンティティの苦悩などは一切描かれず、彼らは中国人として振る舞う。正確には、台湾の「三大林場」の一つとして知られる宜蘭県太平山が舞台。鳳飛飛は猟銃片手に狩りを楽しむ少女役で、もしかすると原住民ではないか、と一瞬思わせるが(李香蘭が原住民少女を演じた『サヨンの鐘』のモデル、サヨンの村は太平山に近い)漢人であり、この映画には原住民は一切登場しない。映画中、梁修身演じる男主人公が作曲し鳳飛飛が歌う歌は、映画製作当時流行のキャンパス・フォーク調で興ざめ。映画中、カイロ会談に出席した蒋介石を褒め称える台詞もある。男主人公は使用人の息子でありながら、日本の旧制高校を卒業後、太平山に戻ってきたとされるが、そんなことはありえるのだろうか。横山少佐は極悪非道で、抗日映画中のステレオタイプな日本人像の範疇を出ないが、ヒロインに横恋慕するところは目新しいといえば目新しい。

 「帽子歌后」と呼ばれ、帽子がトレードマークだった彼女が、いきなりオープニングで帽子をかぶって登場するところは、当時の映画館でも大いに湧いただろう。でもそれだけ。

 

『楓紅層層』(1975・台湾) 鑑賞日 2012.11.20. ★★★★☆

1975・台湾。台湾製DVDで鑑賞。劉家昌が監督・脚本・音楽を担当。監督自身がカメオ出演しているのも楽しい。この頃の劉家昌の映画は、台湾映画界を当時席巻した流行作家・瓊瑤の影響下にあるものが多いが、これも明らかにそうだ。二人の姉妹が一人の男性を好きになってしまい、それによって繰り広げられる愛憎劇。映画中のせりふでも瓊瑤に言及される。

 わがままな妹役を演じる陳莎莉はみずみずしいが、近年ではテレビドラマで意地の悪い皇太后をよく演じている(十年近く前、上海に一ヶ月滞在した際、台湾製ドラマ『懐玉公主』にすつかりはまってしまったが、あのドラマでの彼女の悪辣ぶりは印象的だった)。劉家昌の映画によく起用され、三年後に謎の転落死を遂げる谷名倫も出演。映画中、雪が降る場面があり、また陳莎莉は結婚して、夫・谷名倫の住む台湾に移住するところから見ると、映画の舞台として設定されているのは台湾ではない。仮想の(共産党に支配されていない)中国大陸だろうか、それとも劉家昌が生まれ育った韓国だろうか。ちょっと不思議な気がする。主題歌は蕭孋珠が歌い、甄妮も挿入歌を歌っている。