備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

【映画】カラ・キング

『カラ・キング』2012・マレーシア・台湾/シネ・ヌーヴォ(大阪アジアン映画祭)/鑑賞日 2013.03.16./星5

 大阪アジアン映画祭@シネ・ヌーヴォで鑑賞。この映画祭での上映が世界初上映。昨年の同じ映画祭で『ナシレマ2.0』により「来るべき才能賞」に輝いたマレーシアのNamewee黄明志監督の第三作。『ナシレマ2.0』も素晴らしかったが、これもまた大傑作の娯楽映画だ。
 この映画を見て、まず連想させられるのは周星馳の映画だ。主演に長年周星馳とタグを組んでいた(が喧嘩別れの末共演することはなくなった)呉孟達ン・マンタを据え、監督自身もその息子役を演じる。怒涛のナンセンス・ギャグは、明らかに周星馳の影響下にあるものだろう(私が見た回には監督のQ&Aはなかったが、別の回のQ&Aでは、監督自身は周の影響を否定していたらしい。だが昨年のQ&Aは、周らの「無厘頭」(ナンセンス)映画のファンであることを率直に語っていた)。周星馳の『食神』が料理と武俠を掛けあわせたものだとすると(by岡崎由美先生)、こちらは歌と武俠を掛けあわせたものだ。
 客家・広東・福建系カラオケ文化が根付くマレーシアの田舎のカラ村に、台湾から道場破りの男(高凌風)が現れ、各派の師匠(師傅)をなぎ倒していく。彼の目的は、かつて戦いで打ち負かされた呉孟達に勝利することだったが…。
 『ナシレマ2.0』がマレーシアの様々なエスニシティの融合を高らかに歌い上げたものだったとすると、この映画から感じ取れるのは、中国系の多様な(音楽)文化の融合だ。出演者も香港の呉孟達、台湾の高凌風とバラエティに富んでいる(もちろんマレーシアのマレー人、インド系の人々も出演しているのだが)。そして、クライマックスで歌われるこの映画のメインテーマともいうべき歌では、普通話、広東語、閩南語の順に言語が変化していく。閩南語になると、ムードが急に台湾歌謡風になるのは面白い。このように各地域の音楽文化を相対化して捉えることができるのは、様々な地域から来た中国系住民を抱えるマレーシアならではのものだろう。
 また、何よりも素晴らしいのは監督のロック史に対する愛情だ。本来はラッパーである監督だが、ここではヒップホップの要素を封印し、ロックンロールからメタルまで自在に扱う。ロックファンならにやりとしてしまう小ネタも。政治的正確さの見地からは、ちょっとどうかと感じなくもないくだりもあるが、それも監督の茶目っ気として受け入れたい。
 第二作『鬼佬大哥大』は未見だが、ぜひ見てみたい。才気あふれる監督の今後にも目が離せない。

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