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【映画】奪命金

『奪命金 』2011・香港/シネマート心斎橋/鑑賞日 2013.02.25./星4

 

 

 2011・香港。ジョニー・トー杜琪峰監督。シネマート・デイ(メンズデイでもある)にシネマート心斎橋で鑑賞。平日昼ということもあってか観客4名。

 

 シネマートで何度か予告編を見たのだが、予想していたものとはだいぶ異なっていた。そもそも『奪命金』(原題同じ)という題からして、主人公たちが破滅に追いやられる、というプロットを想像しがちだ。また、ジョニー・トー監督といえば、香港ノワールの旗手。刑事役のリッチー・レン任賢齊、ヤクザ役のラウ・チンワン劉青雲らの間でドンパチあって、手に汗握るサスペンス、と思いきや、そのようなものはない。あるのはバブルと金融危機に踊らされる人々、そして銀行の冷酷さ、等々、香港にいかにもありそうな人々を淡々と描き出す。もちろん殺人事件は起き、人も死ぬのだが、それはありがちな香港ノワールの常套句へとは回収されない。

 

 リッチー・レン、ラウ・チンワン、そしてデニス・ホー何韻詩の三人が、とある強盗殺人事件と交錯する。それぞれの視点により事件前後を描いていく。そのため、時間軸は時に逆戻りする。それぞれ、金銭的に(あるいはそれ以外の生活でも)苦境に置かれ、カタルシスに行くのか、と思いきや、意外な結末が用意されている。

 

 ジョニー・トーならではのスタイリッシュな映像で、香港の実像を描いたこの映画、あるいは「奪命金」というタイトルの肩透かしも確信犯だろうか。携帯電話の着メロも、効果的である。着メロ映画ベスト10、などという企画があればぜひこの映画も選んでほしい。

 

 付記しておきたいのは、ラウ・チンワンのボス役で出演している譚炳文だ。1950年代から広東語映画や流行歌の世界で活躍しており、本作は『エレクション』シリーズに続くジョニー・トー映画出演となる。もう一人、見逃せないのがテレンス・イン尹子維。香港映画ファンには言わずと知れた俳優だが。古い香港映画好きとしては、どうしてもジェニー・フー胡燕妮の息子、ということを強調したくなるが、ここでは普通話(北京語)を話す株売買組織の元締めを演じている。