備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

古い台湾映画2件

映画レビューサイトCiatrがリニューアルした。見た映画の感想は基本的にそちらに書いているのだが、リニューアル後しばらくは、データベースにない映画を登録できないようだ。そんなわけで、備忘のため、ブログに映画の感想を記すことにする。Ciatrに登録できるようになり次第、そちらにも入力することにする。

 

『春寒』(1979・台湾) 鑑賞日 2012.11.19. ★★☆☆☆

1979年の台湾映画。台湾製DVDで鑑賞。歌手の鳳飛飛が初めて映画に主演したもの。先日のシンポで(歌手としての) 鳳飛飛を研究したいという大学院生と知り合い、その流れで見てみたもの。(鳳飛飛の出演した映画は多くないが、何と言っても侯孝賢監督のデビュー作『就是溜溜的地』(ステキな彼女)、第二作『風兒踢踏踩』(風は踊る)に出演していたことは印象深い。)

 さて、のちに子供向け映画を撮る陳俊良監督によるこの映画、正直言って褒められたできではない。カルト映画として面白がる向きもあるようだが(http://so-hot.cc/detail/about/%E6%8A%97%E6%97%A5%E9%9B%BB%E5%BD%B1/result/4)、はっきり言って、くだらない抗日宣伝映画だ。舞台は太平洋戦争期の台湾であるが、台湾人のアイデンティティの苦悩などは一切描かれず、彼らは中国人として振る舞う。正確には、台湾の「三大林場」の一つとして知られる宜蘭県太平山が舞台。鳳飛飛は猟銃片手に狩りを楽しむ少女役で、もしかすると原住民ではないか、と一瞬思わせるが(李香蘭が原住民少女を演じた『サヨンの鐘』のモデル、サヨンの村は太平山に近い)漢人であり、この映画には原住民は一切登場しない。映画中、梁修身演じる男主人公が作曲し鳳飛飛が歌う歌は、映画製作当時流行のキャンパス・フォーク調で興ざめ。映画中、カイロ会談に出席した蒋介石を褒め称える台詞もある。男主人公は使用人の息子でありながら、日本の旧制高校を卒業後、太平山に戻ってきたとされるが、そんなことはありえるのだろうか。横山少佐は極悪非道で、抗日映画中のステレオタイプな日本人像の範疇を出ないが、ヒロインに横恋慕するところは目新しいといえば目新しい。

 「帽子歌后」と呼ばれ、帽子がトレードマークだった彼女が、いきなりオープニングで帽子をかぶって登場するところは、当時の映画館でも大いに湧いただろう。でもそれだけ。

 

『楓紅層層』(1975・台湾) 鑑賞日 2012.11.20. ★★★★☆

1975・台湾。台湾製DVDで鑑賞。劉家昌が監督・脚本・音楽を担当。監督自身がカメオ出演しているのも楽しい。この頃の劉家昌の映画は、台湾映画界を当時席巻した流行作家・瓊瑤の影響下にあるものが多いが、これも明らかにそうだ。二人の姉妹が一人の男性を好きになってしまい、それによって繰り広げられる愛憎劇。映画中のせりふでも瓊瑤に言及される。

 わがままな妹役を演じる陳莎莉はみずみずしいが、近年ではテレビドラマで意地の悪い皇太后をよく演じている(十年近く前、上海に一ヶ月滞在した際、台湾製ドラマ『懐玉公主』にすつかりはまってしまったが、あのドラマでの彼女の悪辣ぶりは印象的だった)。劉家昌の映画によく起用され、三年後に謎の転落死を遂げる谷名倫も出演。映画中、雪が降る場面があり、また陳莎莉は結婚して、夫・谷名倫の住む台湾に移住するところから見ると、映画の舞台として設定されているのは台湾ではない。仮想の(共産党に支配されていない)中国大陸だろうか、それとも劉家昌が生まれ育った韓国だろうか。ちょっと不思議な気がする。主題歌は蕭孋珠が歌い、甄妮も挿入歌を歌っている。