備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

台湾の抗戦~スパイ小説作家・鄒郎と映画(その2)

前回のエントリーで、台湾の作家・鄒郎と映画との関わりについて記したが、その後、香港で出版された彼の著書『烽火中國』全五冊(星輝図書公司、1989)を手に入れ、判明したことがあるので追記しておきたい。

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この『烽火中國』は、前半の三冊が『戴笠新伝』、後半の二冊がその続編の『地下火』となっている。

戴笠とは誰か。ご存じの方も多いだろうが、国民党スパイ組織・軍統のリーダーで、大戦後の1946年に飛行機事故により50歳で死亡した人物だ。したがって、これもまたスパイ活動を描いた小説ということになるのだが、「新傳新序」の中で、執筆の経緯について説明がある。それらよると、鄒郎は1983年に一旦創作活動を辞め、史書の研究などに取り組んでいたが、1985年、国民党政府が映画『戴笠伝』を制作することを決め、国営映画会社・中影が、鄒郎に白羽の矢を立て接触し、彼は制作の仕事は断ったものの、脚本は引き受けた、というのである。その翌日に『美華報導』社長にもスパイ小説の連載を求められ、『戴笠新伝』を書くことにした、という(一方、1984年の『美華報導』に「引子」(まえがき)を書いた、という記述もあるが、1985年の誤りだろう)。この『戴笠伝』という映画は、だが実際に撮られた形跡はない。

第一冊の口絵部分には、李香蘭や川島芳子の写真もある。川島が小説の中にも登場するのはすぐに確認できるが、李香蘭も登場するのだろうか。それはそうと、戴笠といえば、女優の胡蝶に恋慕し、彼女を軟禁した(あるいは情婦とした)という話は有名だが、パラパラめくる限り、胡蝶は小説には登場しないようだ。戴笠にとって不名誉な?ことは書くのを避けたのだろうか。

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さて、この『烽火中國』第五冊の巻末には、鄒郎著作一〇八種書目(一九四九~一九八八)が付されている。その中の「戯劇部」が映画やテレビドラマの脚本の部、ということになる。

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この表のうち、26から41までが映画脚本ということになる。ここには、先のエントリーで言及しなかったものもたくさん含まれているが、どれも実際に取られた形跡がないものばかりである。

(『狂風沙』のみは同名の映画が台湾・萬邦有限公司で1972年に撮られているが、脚本担当も別人であり、無関係だろう。)

以上、取り急ぎ追加報告でした。