備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

昆明の書店で学術書を買うには(2013/9/20追記)

 3月9日深夜から3月16日早朝まで昆明に滞在した。今回は事情により農村調査に入れず、思いがけず昆明市内に長期滞在することになった。そのため、幾つかの書店を回る時間的余裕があった。ネット上には、昆明の学術書が買える書店についての情報がほとんどない(特に日本語では)ため、私が行くことのできた書店を幾つか紹介することにしたい。(※2013/9/20に一部補記あり)

 

[A]新知図書城(大型書店)

 

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小西門のロータリーから北上し、東風西路と昆師路が交差する西南角にあるショッピングモールの3、4階。いずれかの階の入り口にあるコインロッカーに荷物を預けてから入店するシステム。品揃えはなかなかよく、映画などのDVDも豊富。雲南大学や雲南省図書館などからも近いので、ぜひ立ち寄りたい。

 

※購入した本、DVD

谢彩《中国侦探小说类型论》

李皖《多少次散场 忘记了忧伤:六十年三地歌

傅葆石《灰色上海,1937-1945:中国文人的隐退、反抗与合作》

白薇、杨天舒主编《传媒与20世纪文学:现代传媒与中国现当代文学国际学术研讨会论文集》

丁言昭《安娥传:<渔光曲>的人生旋律》

叶凯蒂《上海・爱:名妓、知识分子和娱乐文化1850-1910》

云南省玉溪第一中学编《中华之声 聂耳》

卜保怡《昆明名人旧居》←これ、実は旧版。他店で新版を購入。

DVD《观音山》《非诚勿扰2》《肩上蝶》《不再让你孤单》《人再囧途之泰囧》《一盘没有下完的棋》(=『未完の対局』、日本ではDVD未発売)《海上沉浮:红颜》(CCTVの番組、黎莉莉、阮玲玉、李香蘭、周璇、胡蝶を取り上げる)

 

※補記 2013年8月29日の写真二枚を上に追加しました。同日購入した本は、

朱海明《风情民国老期刊》

李静《乐歌中国:近代音乐文化与社会转型》

黄万华,刘方政,马兵 等《经典解码:20世纪中国文学与电影》

闻黎明《抗日战争与中国知识分子:西南联合大学的抗战轨迹》

彭磊编著 《昆明六十年记忆》

张静蔚编《触摸历史:中国近代音乐史文集》

曾健戎 ,刘耀华《中国现代文坛笔名录(增补版)》

 

 

[B]清華書屋(大型書店)

 

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雲南師範大学正門の左隣にある書店。「清華」の名が冠せられているのは、ここが抗戦期に北京大学清華大学、南開大学が合併してできた西南聯合大学の跡地(雲南師範大学)に近いからだろうか。昨年夏にも知り合いの先生に連れてきてもらったこの店、見かけはさほど立派ではないが、結論から言うと昆明でいちばん学術書の品揃えがよい店だ。一階の入り口でカバンを預け、二~三階の店舗に上がる。学術書があるのは三階。ジャンル別にきちんと配列されている。DVDはない。

 

※購入した本

胡霁荣《中国早期电影史1896-1937》

吴新兰《存在与感知:日本动漫在中国的跨文化影响》

王勇、鲍静《玫瑰玫瑰我爱你:追寻上海老歌的前世今生》

罗卡、法兰宾《香港电影跨文化观(增订版)》

吴秀明、陈力君主编《大众文学与武侠小说》

苏伟贞《长镜头下的张爱玲:影像 书信 出版》

冉隆中主编《昆明的眼睛》

卜保怡《昆明名人旧居》←新版

高维进《中国新闻纪录电影史》

段颖《泰国北部的云南人:族群形成文化适应与历史变迁》

 

※補記 2013年8月29日の写真を上に追加しました。同日購入した本は、

曹立新《在统制与自由之间:战时重庆新闻史研究(1937—1945)》

江青江青的往事往时往思》

 

[C]昆明書城(大型書店)

 

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昆明随一の繁華街、南屛街の歩行者天国のやや東寄り、南側にある。レシートには「昆明書城」と記されているが、新華書店という大きな看板が出ている。ビル全体が書店だが、残念ながら一般向け書店で、学術書は少ない。文房具や玩具等も売っている。

 

※購入した本

赵士荟编著《老影星自述》

刘禾《帝国的话语政治:从近代中西冲突看现代世界秩序的形成》

张彤《曲终人不见:中国新音乐进程中的十位音乐家》

 

※補記 2013年8月29日の写真を上に追加しました。同日購入した本は、

钱理群《中国现代文学史论》

张昌山主编《战国策派文存(上、下)》

  

大型書店ではこの他、北京路と人民東路交差点を少し東に行ったところの北側に新華書店があるようだが、今回は行く機会がなかった。

 

[D]漫林書苑(独立書店)

 

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雲南大学近く、文化巷(俗称・洋人街)にある独立系書店。幾つかの日本語サイトでも紹介されている。おしゃれな店内に写真集、通俗小説などが並んでいる。二階では洋書が売られている。だが、学術書は少なく、ここでは本は買わなかった。

 

[E]麦田書店(独立書店)

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漫林書苑から文化巷を東に進み、突き当りを右折して南下すると麦田書店が見える。ここの店主は「奇妙的日子」楽隊(ドアーズのアルバムから名付けたのだろう)でバンド活動を行なっている馬力だ。店内には海外のロックのCDも並べられている。狭い店内だが、漫林書苑に比べると、学術書の品揃えはよいと思う。于堅の詩集『便条集』の企画出版も行ったとのこと。この店で購入した『中国独立書店漫遊指南』にも、昆明の書店として唯一取り上げられている。購入時、端数をおまけしてもらった。

 

※購入した本

雅倩《中国独立书店漫游指南》

冯永祺《南行踏歌:艾芜与云南》

 

 

[F]智源書店(独立書店)

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これは、偶然通りがかった独立書店。昼間行った人の話によるとお茶を出してもらったとのこと。特に目を引く本はなく、何も購入しなかったが、一応学術書も置いている。

 

あとは、雲南民族博物館の書店も覗いた。少数民族関係の(やや古めの)書籍、DVDなどを陳列していたが、特に買いたいものはなかった。

 

(以上、一週間の滞在で除くことのできた書店について記しました。長期滞在の方がご覧になると、あれこれ抜けていると思われるかもしれません。ご指摘頂ければ幸いです。)

 

[G]滇池書城(大型書店)※2013/9/20追記

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8月の昆明で泊まったホテルに近いので覗いてみた。新華書店系大型書店。清潔な店内であるが、エスカレーターは止まっていた。ここでは特に本を買わずじまい。とは言え、他店で購入した本も見かけたので、こちらに先に来ていればここで購入したことだろう。

【映画】人間万事塞翁が犬

人間万事塞翁が犬』2012・台湾・日本/シネマート六本木/鑑賞日 2013.03.27./星3

 東京出張中にシネマート六本木で鑑賞。侯孝賢映画の字幕、『珈琲時光』のプロデュースなど、中国語圏映画の日本での窓口的存在である小坂史子氏(『珈琲時光』のヒロイン陽子は彼女がモデルだとも言われる)が監製の一人に名を連ねる、日台合作映画。とは言ってもキャストはほとんど全て台湾人で、撮影や音楽などに日本人スタッフが関わっている。

 監督はこれまで蔡明亮の『ヴィザージュ』などの美術を担当していた李天爵で、これが監督デビュー作。だが、残念ながら映画の内容はやや期待はずれだった。リアルな台湾の若者を描くのか、中国古典に取材した寓話の世界を描くのか、どうにも中途半端。また、テンポが悪く、なかなか物語に入り込むことが出来なかった。飼い始めて49日目に飼い主が不幸になるという犬をめぐる物語。だが、この犬と主人公はなかなか出会わないし、また主人公とヒロインもなかなか出会わないのだが、前半のエピソードはここまで細かく描く必要があったのか疑問だ。

 ただ、俳優たちの演技は悪くない。王柏傑は『阿嬤的夢中情人』のキザな二枚目俳優役とは打って変わって、何事もうまくいかない情けない男を演じる。ミュージシャンでもあり大学や教会でも活躍する朱約信は、怪しげな司祭役。『セデック・バレ』で花岡二郎を演じた蘇達も、一人で何役も演じて存在感を示している。朱約信の他、やはりミュージシャンで濁水溪公社のリーダー、柯仁堅の社長役も印象的。あとレストランの店員役の俳優も印象に残る演技だった。

 そういえば監製の小坂文子さんも、伝統の味を受け継ぐレストランの日本人オーナーとして登場しているのだが、なぜかクレジットは「金太郎」となっていた。 
《命運狗不理》Legend of the T-Dog 正式版預告~12月7日狗來運轉- YouTube

【映画】大尾鱸鰻

『大尾鱸鰻』2013・台湾/台北・今日秀泰影城/鑑賞日 2013.03.21./星4

 台北・西門町、今日秀泰影城で鑑賞。監督の邱瓈寬はこれが初監督作品だが、台湾の芸能界~映画界で長年裏方として活躍してきた女性で、フェイ・ウォンの楽曲の作詞も手がけたことがある。彼女自身脚本を書いたものの、監督が見つからず、自分で監督することになったものという(北村豊晴監督にも依頼したものの、ライバル旧正月映画との関係で断られた、とのこと)。

 一言で言うと、ドタバタコメディ。主に台語を操る芸能人、豬哥亮が一人二役の主役。彼がいないとこの映画は成立しなかっただろうとおもわれるほどのはまり役、おそらく彼を意識して書いた脚本だろう。監督自身、台湾芸能界では毒舌で知られるようだが、ここでの豬哥亮も台語の罵り言葉を連発。またシモネタも満載。馬鹿馬鹿しいが、面白い。

 題名は、ヤクザの親分になった豬哥亮が、ヤクザの世界も国際化しなければならないと考えて、David Lomanなる名前を名乗ったことに由来する(その音に漢字を当てたもの)。だが中身は相当に台湾土着の世界である。台湾では南部を中心に大ヒット中だが、台湾内部しか相手にしないような映画でよいのか、という論争も巻き起こしている。

 若いカップルとして、郭采潔と楊祐寧が出演。二人はこれに先立つテレビドラマでも共演して、現実においても熱愛が伝えられている。郭采潔は、『台北の朝、僕は恋をする』(一頁台北)や『LOVE』(愛)などヒット先にたてつづけに出演しているが、この映画では珍しく男勝りのツンデレタイプ。

 この映画、惜しむらくは、台語が理解できたならもっと楽しめたのに、というところだ(字幕のスピードについていけない瞬間も)。

台北の朝、僕は恋をする [DVD]

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【映画】阿嬤的夢中情人

『阿嬤的夢中情人』2013・台湾/台北・絶色影城/鑑賞日 2013.03.21./星4.5

 台北・西門町で鑑賞。『一万年愛してる』の北村豊晴と、蕭力修の共同監督作品。「台湾のハリウッド」北投で撮影されていた、60年代台語映画の栄光と没落にオマージュを捧げた映画。実に素晴らしい。今は年老いたかつての脚本家と、痴呆症を患うその妻が、かつて台語映画界でいかに活躍したのか。当時の台語映画界の粗製濫造ぶりがややデフォルメされながらドタバタ喜劇仕立てで描写される。もちろん、すぐれた映画もあったことが映画中では示されるのではあるが。

 映画中では、台語片といっても、台語がうまく話せない外省人俳優がいたことも描かれる。また実際に日本人も台語片に監督して関わった事実があるのだが、この映画中では、映画のスタッフとして日本人が登場する(北村監督自身が演じる)。その他、ディテールも含め、うまく作られている。台語スパイ映画にもオマージュが捧げられ、スパイ同士の暗号が、愛の誓いの台詞へと換骨奪胎される。そして、その台詞は現代の場面でもうまく使われる。

 洪一峰による台語歌謡の傑作「思慕的人」「寶島曼波」、台語映画『大俠梅花鹿』『小姑娘入城』、そして『第七號女間諜』などがこの映画の直接の参照元。『大俠梅花鹿』は台湾ではDVDも発売されているので、鑑賞前に見ておくといいだろう。洪一峰についても、近年トリビュートアルバムやドキュメンタリー映画『阿爸』(ciatrでレビュー済み)も作られている。

 難を言うと、北村監督が時折過度に日本風と思われるギャグセンスを発揮するところ。台湾映画へのトリビュートなのだから、日本のお笑い風味はもっと抑えたほうがいいのではないか、と思った(か管見の限り台湾のブログなどではそのような反応は見当たらない)。

 国語普及政策を推進する政府の圧力により、生命力が失われていった台語映画。だが、政治の後ろ盾がない中で、売れる映画を作るために様々な創意工夫もあったことも事実であろう。時を経てこのように大々的に再評価され、その魅力の片鱗が一般にも認識されるようになったのは素晴らしいと思う。

             

【映画】二重露光~Double Xposure~

『二重露光~Double Xposure~』2012・中国/梅田ブルク7(大阪アジアン映画祭)/鑑賞日 2013.03.17./星4

 2013年の第8回大阪アジアン映画祭で、クロージング作品として上映された。同映画祭で特集企画のあった中国の女流監督、李玉の最新作。会場には監督自身は現れなかったが、上映前には監督によるビデオ・メッセージが流された。

 さて、中国でも大ヒットしたこの映画、エンターテイメントとして楽しめるサイコ・サスペンスとなっている。整形外科で働く范冰冰、凛々しい姿だが、物語は意外な方向へ展開していく…。途中までは、どうなるものかとハラハラドキドキの連続だが、終わってみたら李玉監督作の中でも分かりやすい映画となっている。前作や前々作と異なり、范冰冰以外には若手スターは出ていない(陳冲ジョアン・チェンはいるが)ため、彼女の演技が十分に堪能できる。いろいろな意味で、彼女の一人舞台だ。そんな中でも、瑞々しい映像が映画の端々で見られる。秦皇島や新疆のロケも印象深い。

 見終わった後、もう一度見てみたくなる映画である。実際、映像はYoutubeでも見ることができるが、見る前と後では、冒頭のシーンが全く違うように見え、はじめから伏線が張られていたことに気付かされるのだ。

    

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【映画】Fly Me to Minami~恋するミナミ

『Fly Me to Minami~恋するミナミ』2013・日本・シンガポール/シネ・ヌーヴォ(大阪アジアン映画祭)/鑑賞日 2013.03.17./星4.5

 大阪アジアン映画祭@シネ・ヌーヴォで鑑賞。この映画祭での上映が世界初公開。秋には一般上映も予定されているそうだが、その際にはさらに編集が加えられたバージョンになるという。

 かつては実験的な作風が際立っていたマレーシア出身のリム・カーワイ林家威監督が、前作『新世界の夜明け』に続き、大阪を舞台にしたハートウォーミングな映画を作り上げた。だが、アジアを股にかけて活躍するリム監督のこと、一筋縄ではいかない設定になっている。香港で雑誌の編集を手がけるシェリーンと、アマチュア・カメラマンの大学生タツヤ。キャビン・アテンダントの韓国人と、コリアタウンで韓国雑貨を販売するシンスケ。二組のカップルの出会いと別れを描く。関西空港、大阪市立大学三角公園など、馴染みのある場所が次々と登場。特に大きな出来事が起こるわけではないのだが、心あたたまる。劇中では、日中関係の悪化などにも言及される。そう、これは2012年冬の大阪におけるアジアの人々の交錯の一断面なのだ。マレーシア出身の監督だけに、ちゃんとマレーシア人も登場する仕掛けも(香港人という設定である主演のシェリーン・ウォンも、実際にはマレーシア出身とのこと)。

 我らが大阪を美しく描いてくれた監督に感謝したい。劇場公開版も楽しみだ。

 さて、上映後のQ&Aでは、業界人の方だろうか、監督の足品は「本」(脚本)が弱いのが残念だ、とする意見もあった。それに対して、監督は、映画は脚本だけによって決まるのではない、と答えていたが、同感だ。私自身はちょっと頓珍漢な質問だったが、香港のシーンでは「法輪功」の横断幕などが数度映るが意識的だったのか、またラストシーン近くではスーパー玉出のネオンサインが映るが、同スーパーでロケをした『新世界の夜明け』と併せて考えると、これも意図的だったのか、ということを聞かせていただいた。どちらも意図的ではない、とのこと。(Q&amp;Aでは監督は「法輪功」という言葉を聞き間違えられたのだが、あとでサインを頂いた時に再確認しました。)

 

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【映画】カラ・キング

『カラ・キング』2012・マレーシア・台湾/シネ・ヌーヴォ(大阪アジアン映画祭)/鑑賞日 2013.03.16./星5

 大阪アジアン映画祭@シネ・ヌーヴォで鑑賞。この映画祭での上映が世界初上映。昨年の同じ映画祭で『ナシレマ2.0』により「来るべき才能賞」に輝いたマレーシアのNamewee黄明志監督の第三作。『ナシレマ2.0』も素晴らしかったが、これもまた大傑作の娯楽映画だ。
 この映画を見て、まず連想させられるのは周星馳の映画だ。主演に長年周星馳とタグを組んでいた(が喧嘩別れの末共演することはなくなった)呉孟達ン・マンタを据え、監督自身もその息子役を演じる。怒涛のナンセンス・ギャグは、明らかに周星馳の影響下にあるものだろう(私が見た回には監督のQ&Aはなかったが、別の回のQ&Aでは、監督自身は周の影響を否定していたらしい。だが昨年のQ&Aは、周らの「無厘頭」(ナンセンス)映画のファンであることを率直に語っていた)。周星馳の『食神』が料理と武俠を掛けあわせたものだとすると(by岡崎由美先生)、こちらは歌と武俠を掛けあわせたものだ。
 客家・広東・福建系カラオケ文化が根付くマレーシアの田舎のカラ村に、台湾から道場破りの男(高凌風)が現れ、各派の師匠(師傅)をなぎ倒していく。彼の目的は、かつて戦いで打ち負かされた呉孟達に勝利することだったが…。
 『ナシレマ2.0』がマレーシアの様々なエスニシティの融合を高らかに歌い上げたものだったとすると、この映画から感じ取れるのは、中国系の多様な(音楽)文化の融合だ。出演者も香港の呉孟達、台湾の高凌風とバラエティに富んでいる(もちろんマレーシアのマレー人、インド系の人々も出演しているのだが)。そして、クライマックスで歌われるこの映画のメインテーマともいうべき歌では、普通話、広東語、閩南語の順に言語が変化していく。閩南語になると、ムードが急に台湾歌謡風になるのは面白い。このように各地域の音楽文化を相対化して捉えることができるのは、様々な地域から来た中国系住民を抱えるマレーシアならではのものだろう。
 また、何よりも素晴らしいのは監督のロック史に対する愛情だ。本来はラッパーである監督だが、ここではヒップホップの要素を封印し、ロックンロールからメタルまで自在に扱う。ロックファンならにやりとしてしまう小ネタも。政治的正確さの見地からは、ちょっとどうかと感じなくもないくだりもあるが、それも監督の茶目っ気として受け入れたい。
 第二作『鬼佬大哥大』は未見だが、ぜひ見てみたい。才気あふれる監督の今後にも目が離せない。

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