備考欄のようなもの

主に、中国語圏の文学・音楽・映画等について記します。

和歌山に胡美芳の故居を探す

 日本における中国系歌手の系譜を考えているのだが、その代表的人物として避けて通れないのが和歌山生まれの胡美芳である。彼女の経歴や活動の詳細については、また活字にする時に記したいが、ここでは、彼女が和歌山のどこに住んでいたかについてのみ触れる。

 彼女がどこに住んでいたのかについては、実は自伝『海路遥かに』に詳しく記されている。和歌山市吹屋町の理髪店であること、家の前には広い道路があり、すぐ裏が和歌川だったこと以外に、以下のような記述がある。

隣の安田モータース(運送店)の敬子ちゃん、その隣の川崎(靴屋)の栞(しおり)ちゃんと弟の儀一ちゃん、裏の家に住んでいた小南(こみなみ)の千代ちゃん・稔ちゃん姉弟、斜め向かいの粉屋の子で、一つ年上の前田の政ちゃん、その弟で私と同い年の禎ちゃん、磯野(溶接屋)の茂ちゃんらがいつも一緒だった。 

 そして、『海路遥かに』には、同書が出版される前年の1984年、45年ぶりに中国から日本に帰ってきた弟と、この故居を再訪する描写がある。

不意に、弟の足が止まった。

「姉さん!」

弟が悲鳴に似た声をあげた。

「あった!ぼくたちの、家が……」

声をつまらせて、弟が指さす方向を見ると、なんと、隣の敬子ちゃん家と私たちの生まれ育った家だけが、昔のまま残っていた。屋根は波打ち、家は傾いて今にも倒壊しそうであったが、まぎれもなく 、それは私たちの生家だった。人が住まなくなってもう長いのだろう、入口と二階の窓に掛けたカーテンはすっかり色あせ、「理容」と書かれた入口のガラス戸も大きくヒビ割れている。舗装工事で盛り土されたためか、表の路上から見ると、家屋全体が地面に沈んだように見える。それがいっそう歳月の重みを感じさせ、私は胸がつまった。

 

海路遥かに

海路遥かに

 

  戦中に手放した理容店の建物が1984年にも存在していた、というのは凄いが、だとするともしかして現在も存在しているのだろうか?

 それを確認するためには、まずは場所を特定しなければならない。

 以下の画像は、1977年に刊行されたゼンリンの住宅地図からの抜粋である。

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これを見ると、「吹屋町一丁目」と記された大通りの左側に、「磯野溶接」、そして「川崎」という家があるのが確認できる。胡美芳は「隣の安田モータース(運送店)の敬子ちゃん、その隣の川崎(靴屋)」と記しているので、川崎邸の二件先、すなわち「ガレージ」(ここが安田モータース跡地だろうか)と「磯野溶接」に挟まれた「宝山理容」こそが、胡美芳が育った家ではないだろうか(跡地を同業の理髪店が引き継いだことで、1984年まで昔の姿を留めていたのかもしれない)。この地図では「宝山理容」は和歌川に接していないが、胡美芳の家の裏には離れがあったとのことなので、この地図の「楠」とあるところが、その離れに相当するのかもしれない。
 この推測を元に、実際に歩いてみた。

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 この写真は、道路の西側の「宝山理容」(すなわちかつては胡美芳の実家「周理髪店」があったと思われる場所)のあたりから南東を向いて撮った写真である。かつての地図では、南方酒店(現在は南方福一商店)、井筒屋(いづつや)の南に2軒家屋があるのだが、それは交差点の整備ないし道路の拡張・付替えで立ち退かされたのかもしれない。

 残念ながら、その周理髪店跡は、現在ではタクシー会社の駐車場となっている。南の海草橋の上から、その駐車場を撮ってみた。

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 『海路遥かに』によると、川と離れ家の間には低い塀があった、とのことだが、今では川岸もコンクリートで固められ、駐車場と川岸との間にあるのは塀ではなく金網だ。この駐車場のやや奥側が「周理髪店」ということになる。『海路遥かに』は、上流の南材木町の木場の丸太がこのあたりまで浮かんでいて、よくそれに乗って遊んだとのことである。

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 対岸の川岸には降りられるようになっており、その対岸から撮った駐車場の写真。
 ところで、先の1977年の地図を見ると気づくのだが、(周理髪店跡地の)「宝山理容」の向かいにも、「宝山理容室」がある。おそらく、「宝山理容」は古い周理髪店の建物を嫌って、こちらに新店舗を構えたのではないだろうか(この場所は、他の古地図によると胡美芳の幼馴染の前田家が住んでいた場所と思われるが、詳細は省略)。そして、(上の写真にも映っているが)その道路の東側の「宝山理容室」は、なんと現在も美容院なのである。

 

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 現在はグレイスという店名だが、ネットを検索すると少し前までは「美容室てんとう虫」であったようだ。いずれにせよ、道路の反対側とはいえ、胡美芳の父、周(胡)玉山が開いた理髪店という土地の記憶が長い年月を経ても受け継がれているようで、興味深い。
 残念ながらお盆のど真ん中に訪れたため、近所の店は全てしまっていて、話を聞くことはできなかった。というわけで、今回は小ネタ程度の投稿だが、ご勘弁を。

 

スター☆デラックス 胡美芳

スター☆デラックス 胡美芳

 

 

山口淑子(李香蘭)主演の幻の映画『四つの幻想』

 以前、このブログに山口淑子李香蘭の出演映画をまとめた(こちら)。だが、調査を進めると、そこから漏れていた映画の存在が浮かび上がってきた。それが、1951年公開の映画『四つの幻想』である。以下は『近代映画』7巻8号(1951年8月)に掲載された写真だ。

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記事を文字に起こすと、以下のようになる。

 一年ぶりに歸國して、日本滞在約二十數日。
 ふたゝびホリウッド映画「東は東」出演のために渡米した山口淑子さん[。]出るはずだつた東寶の本格的な映画もオヂャンになつて、そのために三日間で撮影完了という超スピード短篇音樂映画「四つの幻想」を製作して、久方ぶりに日本の山口ファンに應えた、これはその場面スナップ集である。製作も早いが封切もスピード、すでに六月初旬スクリーンにお目見得しているが、見落されたファンのため、こゝに誌上再現する!

 

 この記事からは、この映画が急遽企画されたものであり、また「歌うアルバム」とあるように、音楽中心で大したストーリーのない映画であったことが窺える。

 それでは、この映画で歌われた楽曲は、いったいどのようなものだったのだろうか。

実は、読売新聞にこの『四つの幻想』の広告が掲載されている。

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左が、6月4日、右が6月7日の広告である。これらからは、この『四つの幻想』が『メスを持つ処女』との同時上映であったこと、そして日劇ダンシングチームが『四つの幻想』に出演していたことが分かる。だが、気になるのはその曲目である。広告には、「お江戸日本橋」「珊瑚礁の彼方」「愛の花びら」「夜来香」の四曲が記されている。すなわち、それぞれ日本、ハワイ、フランス、そして上海の楽曲がフィーチャーされているのである。

では、この映画の音楽を担当したのは誰だろうか。その答えは、当時のポスターの中にあった。

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『四つの幻想』の部分を拡大すると、

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このようになる。「演出」とクレジットされているが、実質的な監督は田尻繁。1950年から1957年にかけて主に東宝でこの映画以外に10本の映画を撮った監督だ。そして、音楽担当は、山口淑子とは縁の深い服部良一だったのだ。

 さて、この映画でフィーチャーされた4曲について考えてみたい。「お江戸日本橋」は、日本の民謡で山口は正式にレコーディングはしていない。冒頭に掲げた『近代映画』の四幅の写真のうち、右上の写真がこの曲のシーンだと思われる。続く「珊瑚礁の彼方」は日本では山口淑子がいち早くレコーディングしたことで知られるハワイアンの名曲Beyond The Reef(ただし、山口のレコードでは「珊瑚礁の彼方に」となっている)。ワイキキで活動していたカナダ人ピアニスト、ジャック・ピットマンが書き、ナプア・スティーヴンスが録音した後、ビング・クロスビーのカバーによって有名になった曲。もしかすると渡米していた山口自身が(クロスビー版を)持ち帰ったのかもしれないが、前年の1950年にハワイで公演を行った服部良一が持ち帰った可能性も高い。だが、レコード(日本コロムビアA1170-A)ではなぜかコロムビアの編曲家として名高い(戦前の李香蘭の多くの曲の編曲も手掛けた)仁木他喜雄が編曲を担当している。録音はこの映画撮影と同じく短い帰国の間(1951年5月9日)、レコードの発売は映画公開の一週間後の6月15日だった(録音データは、CD『伝説の歌姫 李香蘭の世界』による)。『近代映画』の記事の左下の写真がこの曲のシーンであろう。 

伝説の歌姫 李香蘭の世界

伝説の歌姫 李香蘭の世界

 

  一方、三曲目の「愛の花びら」は、「ラ・ヴィ・アン・ローズ(愛の花びら)」(日本ビクター V-40660)として、1951年11月に発売された。フランスのエディット・ピアフの代表曲として知られるこの曲だが、山口淑子版はレコードでも服部良一が編曲を担当している。『近代映画』記事の左上の写真がこの曲のシーンだろう。

ゴールデン☆ベスト 山口淑子(李香蘭) 夜来香~何日君再来

ゴールデン☆ベスト 山口淑子(李香蘭) 夜来香~何日君再来

 

 四曲目の 「夜来香」は言わずと知れた李香蘭の上海時代の代表曲で、上海百代に吹き込んだが、日本に帰国後も日本語で再録音しているが、その再録音版(日本ビクターV-40303)は服部良一の編曲、1949年に吹込み、1950年1月に発売されている。『近代映画』の右下の写真がこの曲のシーンだろう。

 ところで、服部良一は「ビヨンド・ザ・リーフ」にはこだわりがあったのか、毎日放送のラジオ番組『服部良一アワー』の1954年8月29日放送分では山口淑子が三曲の歌を披露したが、そのうちの一曲として「ビヨンド・ザ・リーフ」を歌っているのである(横浜の放送ライブラリーで視聴可、こちらを参照)。仁木他喜雄のアレンジとは異なる自分のバージョンを披露したかったのだろうか?残りの二曲は「支那の夜」と「夜来香」で、一曲も服部自身の作曲した曲がないのが面白いが、実はこの『服部良一アワー』の「夜来香」は20分余りあるバージョンで、戦時上海で服部が編曲した「夜来香ラプソディ」を思わせるものである。服部はレコードには残せなかった夢をラジオ番組で再現しようとしたのだろう。だとすると、『四つの幻想』の「夜来香」はどうだったのだろうか。やはり「夜来香ラプソディ」に近いロングバージョンであった可能性が高いのではないだろうか?

 歴史に埋もれてしまったこの映画、どこかにフィルムが残っていて目にすることができれば素晴らしいのだが…。今後の発掘に期待したい。

 

第12回大阪アジアン映画祭、私的ランキング(後篇)

(前篇:第12回大阪アジアン映画祭、私的ランキング(前篇) - 備考欄のようなもの)

 さて、後篇に入る。第7位以上はさらに混戦模様。どれが上に来てもおかしくなく、むりやり順位付け。

  • 第7位 『敗け犬の大いなる煩悩』マレーシア(中)令伯特煩惱(英)GOODBYE MR LOSER
     これは、文句なしにこの映画祭で一番楽しんだ映画だ。これがワールド・プレミアとなる。エイドリアン・テイ監督は、昨年の大阪アジアン映画祭で上映されたチャップマン・トー杜汶澤監督の『 ご飯だ!』(開飯啦!)でもプロデューサーとしてクレジットされていた。
     ストーリーは、さえない30代男が高校生に戻って人生をやり直そうとする、というもの。自分の人生をやり直すというテーマ、やはり訴求力が強く、面白い。『ペギー・スーの結婚』などとの類似も感じられるが、実は、これ中国内地の大ヒット映画《夏洛特烦恼》(元は同名舞台劇)のリメイクである。原作映画は未見だったが、ネット上の動画で確認したところ、プロットだけでなくディテールもほぼ踏襲していることがわかるため、この順位に留めた(当初はもっと高い順位にしようと思っていたのだが…)。中国内地で作られた映画やストーリーが翻案されて海外展開されるというのは珍しいが、中国のポップカルチャーも成熟してきたということだろう。
     このマレーシア版では、食べ物などがローカライズされるだけでなく、2000年前後のC-popがふんだんに使われるところがセールスポイント。オリジナルでも使われていたジェイ・チョウ周杰倫だけでなく、五月天、デヴィッド・タオ陶喆らの音楽も。オリジナルでは主役(妻となる女性)はレスリー・チャン張國榮のファンとされていたが、こちらではアンディ・ラウ劉德華のファン(アンディのそっくりさんも登場する)。主人公と合作する女性スターは那英からアーメイ張惠妹に変更。『還珠格格』ネタも使われるなど、このマレーシア版のほうが汎中華圏にアピールする作りとなっていた。


    《令伯特烦恼》GOODBYE MR LOSER Official Trailer | In Cinemas 30.03.2017


    2017電影 - 夏洛特煩惱 - 动作片 - 電影 線上 看

     

     第6位 『女士の仇討』香港(中)女士復仇(英)HUSBAND KILLERS

  • 昨年の大阪アジアン映画祭で『荒らし』(老笠)が上映され、文字通り度肝を抜かれたファイアー・リー火火監督の最新作、この映画祭での上映が世界初上映となる。
     昨年の『荒らし』もそうだったが、エログロ、お馬鹿炸裂『荒らし』は、ほぼ室内劇だったこともあって、吉本新喜劇を想起させられたのだが、こちらはアクション中心。三股~四股をかけられた、三人の女性による復讐劇。Q&Aで司会のリム・カーワイ監督がタランティーノを引き合いに出していたが、タランティーノが70-80年代の香港武俠映画に影響を受けているとすれば、ファイアー・リー監督は80-90年代頃の香港ノワールの影響が強いと思う。当時の監督が大真面目に撮っていた香港映画ならではの大げさな演出(褒め言葉)を今日の目からパロディとして再構築している。ヒロインの一人が両手にピストルを構えるのは、もちろん『男たちの挽歌』(英雄本色)のチョウ・ユンファ周潤發のパロディ。映画が主要なロケ地、沙田の龍華酒店はブルース・リー李小龍の『ドラゴン危機一発』(唐山大兄)が撮られた場所でもある。
     前作は、一見すると行き当たりばったりのようでありながら、実は巧みに構成されていて、なおかつ香港社会の諷刺になっている、というところが素晴らしかった。この映画は、そこまであからさまな諷刺は感じられなかったが、これはこれでよい。ファイアー・リー監督ならではのハチャメチャな個性をすっかり自分のものにしている。三人の女から男を奪った女性の名前がミッシェル・リーなのは、同名の女優(李嘉欣)が複数の婚約・結婚経験のある許晉亨と結婚したことに対する皮肉なのだろうか?
     なお、今回の映画祭用に監督側は日本語ポスターをしており、そこには『女たちの復讐』と邦題が記されていた。そのほうがしっくり来ると思うのだが(「女士」は日本語ではないと思うし)…。


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  •  第5位 『七月と安生』香港=中国(中)七月與安生(英)SOUL MATE
     デレク・ツァン曾國祥、第6回大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞した『恋人たちのディスクール』(戀人絮語)での監督デビュー以来、これが第四作となるようだ。(本作はピーター・チャン陳可辛監督がプロデューサーとしてクレジットされている。)本映画祭でABC賞を受賞した本作、順位が低すぎると思う向きも少なくないだろう。実際、非常によく作られた映画だ。
     香港の監督ながら舞台は中国内地で、台詞はすべて普通話。性格の正反対の七月と安生という二人の女性と蘇家明との三角関係が描かれる。安生は七月のことが好きであるようにみえる描写があり、第8回大阪アジアン映画祭で上映された台湾映画『GF*BF』(女朋友。男朋友)のように、A→B→C→Aのような循環式(?)の三角関係が描かれるのだろうと思ってみていると、そうはならずに一般的な異性愛の三角関係へと回収される。いまの中国ではあからさまな同性愛の描写が難しいこともあるのか、とも思ったが、原作に従ったまでのことかもしれない。
     その原作は安妮宝貝によるが、実は小説と映画では結末に大きな差異があるらしい。映画は、(原作とも異なる)架空の小説「七月と安生」の内容を描きながら、それと現実の七月と安生の人生の差異を、ラストのどんでん返しによって鮮やかに描き出す。
     クレジットでは、岩井俊二監督への謝辞があり、人生の入り変わりや記憶といったモチーフは明らかに岩井の影響下にある(原作者の安妮宝貝への岩井の影響についてはこちらの論文http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/61306/1/cc019006.pdfで。)だが、このようなテーマは中国語圏で氾濫しすぎているような気もするため、映像表現の巧みさに心を打たれ、泣かされもしたが、この順位に留めさせてもらった。
     フェイ・ウォン王菲の歌で時代の移り変わりを表現するのもよい(そして主題歌を唱うのはその娘のリア・ドウ竇靖童だ)。主演の周冬雨、馬思純の二人は台湾の金馬奨で最優秀主演賞を描きながらダブル受賞している。


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窦靖童《It's Not A Crime, Its Just What We Do》~ 电影《七月与安生》主题曲 [XWill歌词 | Theme Song]


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  •  第4位 『29+1』香港(中英題も同じ)
     本映画祭で観客賞を受賞した本作。これまでは主に舞台の演出家・女優として活動してきたキーレン・パン彭秀慧。その彼女が脚本・演出・主演の三役を担った舞台劇『29+1』(2005- )を映画化したのが本作である。『女士の仇討』でも主役の一人を務めていたクリッシー・チャウ周秀娜がこちらでも主演(林若君役)。間もなく30歳を迎えようとするキャリア・ウーマンを演じている。彼氏との関係や父の死、あるいは部屋の立ち退きに悩む中、仮の住処として黃天樂の部屋を与えられるが…。この映画も、この性格や生い立ちが正反対の二人の人生が交錯し重なり合う映画である。それにしても黃天樂役のジョイス・チェン鄭欣宜がいい。その楽天的な性格(そして病気)が彼女の母、リディア・サム沈殿霞を彷彿とさせる。
     90年代を描く際に、レスリー・チャン張國榮やBeyondなどが小道具として使われる。また、レコードファンとしては鄭丹瑞が店主役のレコード屋に置かれたレコードに心を奪われた。テレサテンの日本盤LPの前に並んでいた7インチ・レコードはたぶん順に方逸華、張露、潘迪華のもの。


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  • 第3位 『77回、彼氏をゆるす』香港(中)原諒他77次(英)77 HEARTBREAKS
     多様なスタイルの映画を世に送り続けているハーマン・ヤウ邱禮濤監督の最新作で、この映画祭がワールド・プレミア。シャーリーン・チョイ蔡卓妍演じるヒロインが、周柏豪演じる彼氏と十年付き合って分かれるまでを日記本に綴る。その本を見つけた彼氏が彼女を取り戻そうとして奮闘する。と書いてしまえば他愛もないプロットになる(あと、『29+1』とも似ている)が、恋愛映画は珍しいヤウ監督ながら、よく作られている。例えばジョニー・トー杜琪峰監督なら、ストレートなハッピーエンドになりそうなところ、そうはいかないのがヤウ監督ならでは。
     ところで、この映画は、小津安二郎へのオマージュとして、小津特集上映をしている映画館が映され、さらに小津が脚本を執筆したことで知られる茅ヶ崎館でも撮影されている(ヴェンダース『東京画』の影響と、ヤウ監督はQ&Aで話していた)。また、ゲストも豪華シャーリーンのTwinsでの相棒ジリアン・チョン鍾欣潼、ヒップホップグループ農夫のC君も印象的だが、ヒロインの母役としてカラ・ワイ惠英紅にこの映画で再会できたのは意外な喜び。さらにアンソニー・ウォン黃秋生、鄭丹瑞(再び)らも。

  


《原諒他77次》預告片正式曝光

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  •   第2位 『一念無明』香港(中)一念無明(英)MAD WORLD
     新進映画監督ウォン・ジョン黃進の長篇デビュー作。長篇商業映画を撮ったことがない香港の新人監督に与えられる「首部劇情電影計劃」を受賞し、デビュー作にも関わらずショーン・ユー余文樂エリック・ツァン曾志偉、エレイン・ジン金燕玲らのスターが共演した。というわけで、エリック・ツァンと『七月と安生』の監督デレク・ツァンは本映画祭に親子揃い踏み。
     派手なアクションはなく、きらびやかさもない。ひたすら重い。障害をもった母を死なせてしまい精神病を患った息子。そしてその息子を守って二人で生きていこうと決意する(以前に妻子を捨てた)父。上映前の監督の挨拶では、ヘビーな内容ではあるが、映画の中には愛が溢れている、と語られていたが、確かにその通りで、バランス感覚が良い。
     父子は古マンションの一室に住んでいる。より正確に言うと、マンション内の一戸をさらに細かく分けて多くの間借り人が暮らしている。このような情景は1950~60年代の香港映画(特に広東語映画)で見慣れたもので、間借り人がさらに開いている部屋を又貸しするということも広く行われていた。今でも低所得層の間ではこのようなことが行われているのだろうか。あるいは古い映画に対するオマージュ?
     本作は台湾の金馬奨で最優秀新人監督賞、最優秀助演女優賞などを受賞するなど、各地の映画賞を席巻している。本映画祭でも見事にグランプリを受賞した。


    Mad World (一念無明, 2017) trailer

  • 第1位 『姉妹関係』マカオ=香港(中)骨妹(英)SISTERHOOD
     ほとんど差はないが、これを一位とさせてもらおう。この映画は、一応「Special Focus on Hong Kong 2017」にも入っているが、マカオ出身のトレイシー・チョイ徐欣羨監督が主にマカオで撮影したマカオ・香港合作映画で、香港のシーンは皆無。
     トレイシー・チョイ監督は2014年の「マカオ映画祭 in 大阪」でも中編ドキュメンタリー映画『箪笥の中の女』(原題《櫃裡孩》)が公開されていた。『箪笥の中の女』では同性愛がテーマになっていた(監督も映画中でカミングアウトする)のだが、初の長編劇映画となる本作でも、より抑揚のきいた演出ながら、女性同士の友愛を、同性愛的とも(そうでないとも)受け取れる形で描いている。
     マカオ返還前の社会を背景に、マッサージ店に務める女性同士の友情を描くのだが、そこに台湾の青年が現れる。というわけでこの映画も三角関係の映画ということになる。特に目立つ技巧はないものの、この過去の描写と、現代の描写がクロスして、飽きさせない。時代の変化もうまく表現している。オープニングのタイトルで「骨妹』の「妹」の字の中に「18」と「19」という数字が書き込まれていたのもよい。
     それにしても、あのジジ・リョン梁詠琪がアル中の中年女性を演じるようになったか、と感慨深い。同一キャラクターの若い時期を演じた廖子妤フィッシュ・リウはマレーシア出身、昨年のこの映画祭で上映された『レイジー・ヘイジー・クレイジー』(《同班同學》)にも出演していたが、今年の映画祭では本作により「来るべき才能賞」を重唱している。


    電影《骨妹》Sisterhood 宣傳短片

  • というわけで、本年度は香港一色という結果に(一位は主にマカオだが)。昨年度のメモと比べると、今年度は全体的に飛び抜けた作品がなかったかな、というのが全体の印象(もちろん楽しませてもらいましたが)。来年度の映画祭、楽しみにしています。



第12回大阪アジアン映画祭、私的ランキング(前篇)

 2017年の第12回大阪アジアン映画祭も終了した。例年は、この時期に海外出張などと重なることが多いが、今年は用事がある日を除けば初日から最終日まで堪能できた(とはいっても私が見るのは中国語圏の映画が中心で、他地域はあまり見ていないのだが)。初めのうちは、正直言って今回はちょっとイマイチかな、などと思っていたのだが、日を追うごとに充実作との出会いが増え、終わってみると今回もかなり満足度の高い映画祭になっていたと思う。それは特に「Special Focus on Hong Kong 2017」に分類される香港映画(単なる香港映画ではないものも多いが)の充実による部分が大きい。

 全体的な感想で言うと、最近の中国語圏の映画に多い90年代ノスタルジーものが、この映画祭でも目立っていた(三角関係を描いた映画も多い)。印象がかぶっていて、そろそろこのような題材も飽きられる頃ではないかという気もする。音樂に関連する映画が多かったのも今年の特徴か。カラ・ワイ惠英紅や鄭丹瑞のように同じ俳優を複数の映画で目にしたのも、この映画祭の楽しいところだった。というわけで、以下は私が見ることができた映画15本を、個人的評価の低→高順に並べて紹介したい。

  • 第15位 『1万キロの約束』台湾(中)一萬公里的約定(英)10,000 MILES
    ジェイ・チョウ周杰倫もプロデューサーの一人に名を連ねる、サイモン・ホン洪昇揚監督(アメリカで活動しこれが台湾デビュー作)による台湾映画。陸上競技が題材のスポ根もの、なのだが、やや冗漫な印象。スポ根ものにつきもののカタルシスもなかなか得られない。ジェイ・チョウカメオ出演と楽曲は印象的ではある。『私の少女時代』でブレイクしたダレン・ワン王大陸は、この映画のような影のある役柄も似合うように思う。が、どうして彼がグレたのか、そして妊娠の話の伏線が回収されずに終わってしまうなど、いろいろ不可解な点も残る映画だった。


    一萬公里的約定 正式預告 12.16不見不散


    一万公里的约定 1080P 王大陆 / 周杰伦

  • 第14位 『呼吸正常』中国(中)呼吸正常(英)SOMETHING IN BLUE
     これまで映画評論家として活動してきた李雲波の監督デビュー作。現在広州をベースに活動しているとのことで、この映画も広州で撮影されている。広州の若者の真実を描こうとしたとQ&Aで語っていた監督だが、たしかに、普通話と広東語が入り乱れるのは、広州の言語事情を反映している。シークエンスのはじめに、シークエンス内の重要なセリフが先に紹介されるのもお洒落。だが、やや「意余って力及ばず」となってしまっているように思う。焦点がぼやけていて、何を伝えたいのか曖昧に。ある程度中核となるプロットを設定した上で、リアルな映画づくりを目指したほうが良かったのではないか(たとえば侯孝賢のように)。
     映画の中ではピーター・チャン陳可辛監督の『ラブソング』(甜蜜蜜)に言及される。広東語と普通話が入り乱れる映画を撮るにあたってヒントを得たのかもしれない。だが、若者三人のリアルな姿を描く、ということにおいては、むしろピーター・チャン監督の初期作品『風塵三俠』(1993、日本未公開)を参照したのかもしれない。


    SOMETHING IN BLUE 呼吸正常


    梁朝伟 / 周慧敏——《風塵三俠》 高清粤语版

     

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第13位 『墓場にて唄う』マレーシア=フィリピン(英)SINGING IN GRAVEYARDS
 いちおうマレーシアとフィリピンの合作映画ということになっているが、マレーシア的要素はなく、フィリピンの伝説的ロックスターが本人役で主演する全編フィリピンでで撮られた映画だ。監督のブラッドリー・リウがマレーシア生まれの華人でマニラを拠点にしているとのこと。
 ロック・スターのジョーイ・スミスと、そのものまねタレント・ペペを本物のロックスター、ジョーイ・ペペ・スミスが二役で演じるという趣向。だが、映画中のジョーイ・スミスは、現実のジョーイ・ペペ・スミスそのままではなく、バンド名など現実との差異はあるようだ。
 演奏シーンが少なく、音楽そのものを楽しむのには向いていない。また、フィリピンのファンならもっと楽しめるんだろうな、と思いつつ、文脈がわからない歯がゆさも。ゲストなしの回に鑑賞したので、そのあたりのことが聞けなかったのは残念。
 ところで、映画を見ながら、ジョーイ・スミスってどこかで聞いたことがあるな、と考えて思い出した。この人は、日本のニュー・ロックの時代に活躍したスピード・グルー&シンキのメンバーだった人だ!1971年から翌年にかけて二組三枚のLPを残している(タイムリーなことに、間もなく二組とも間もなく最新リマスターによるCDが発売される)。他のメンバーはベースにルイズルイス加部(ゴールデン・カップス、ピンク・クラウド)と横浜華僑ギタリスト陳信輝。ということで、ジョーイ・スミスはもともとはドラマーだが、ギターも弾くらしい。詳細は

Pepe Smith - Wikipedia

で。


Singing In Graveyards Trailer

  

スピード・グルー&シンキ<2017リマスター>

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イヴ 前夜<2017リマスター>

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第12位 『パティンテロ』フィリピン(英)PATINTERO: THE LEGEND OF MENG THE LOSER 
 
ここからは、だいぶ評価が上がって、甲乙つけがたい映画が続く。その中でも、これの順位をいちばん低くしたのは、前評判が高くて期待させられすぎたからとご理解ください。
 で、この映画はフィリピンの路上スポーツ、パティンテロをテーマとしたもの。映画祭のパンフレットには、『少林サッカー』や『ピンポン』に影響を受けた旨が記されている。が、全体のテイストは『少林サッカー』というよりも、デレク・クォック郭子健監督の『全力スマッシュ』(全力扣殺)あたりに近い(プロットの結末も…)。
 ところでこの映画、ゲイ・カップルが重要な役割で登場するため、フィリピンのQシネマ国際映画祭ではジェンダー・センシティビティ賞を受賞したという。だが、それと同時に気になるのがエスニシティ。主人公の親友ニカイは、ニカイ・チウという名前であり中国系という設定だと思われる(演じているのはIsabel “Lenlen” Frialという子役女優。姓は中国系らしくないが“Lenlen”というのが広東語ぽくて気になる )。監督がどの程度意識的にフィリピンにおけるエスニシティを描こうとしたのか気になるところだ。


PATINTERO: ANG ALAMAT NI MENG PATALO (2015) - Official Trailer - Coming-of-age Dramedy

 

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第11位 『ミセスK』マレーシア=香港(中)Mrs K(英)MRS K
  本映画祭のオープニング作品として上映された本作。マレーシアのホー・ユーハン何宇恆監督、カラ・ワイ惠英紅主演。ホー監督にとっては初のアクション映画であり、そして惠英紅にとってはアクション引退作となる。彼女はホー監督の映画では『心の魔』(心魔)に主演しているが、この映画もそれと同様に母性愛がテーマ。もちろん、それに加えてアクションシーンが何よりも見どころだ。そして出演者が豪華。夫役に台湾のロックスター伍佰。そして重要な敵役にサイモン・ヤム任達華(やっぱりうまい!)。陳果フルーツ・チャン監督らもカメオ出演している。
 ところで、ゴールデン・ハーベストでブルース・リーと共演し、後にショウ・ブラザーズで惠英紅とも共演した劉永が、ヒロインの過去(マカオ時代)を知る人物として登場することも興味深い。近年は断続的に映画にも出演しているようであるが、90年代は引退状態だった。ここからは深読みにすぎるかもしれないが、この映画のプロットも劉永の人生経歴に取材したものかもしれない、とも考えられるのだ。劉永は『三十年細說從頭』『青春1000日』などで共演した台湾出身の戴良純と1982年に結婚するもDVで不和となり、台湾に逃げた彼女の顔を傷つける事件も起こしている。戴良純はその後日本の医師と結婚して日本に住むが、台湾人の元カレ(元夫?)がその日本人医師を殺害し、彼女も傷つけるという事件が起きる(当然日本の新聞でもこの事件は報道されている)。この映画のプロットは、マカオからクアラルンプールに行って医師と結婚した女性が昔の仲間に襲われるというもの。一方、劉永の元妻の戴良純の事件は、香港・台湾から日本に行って医師と結婚した女性が元カレに襲われたもの。この映画に対してインスピレーションを与えた可能性もあるのではないだろうか。
 脱線がすぎたが、見どころたっぷりのこの映画、もっと順位を高くしても良かったのだが、ちょっとストーリーが弱いかな、ということでこの順位にさせていただいた。
 なお、惠英紅は今回の映画祭で第3回オーサカAsiaスター★アワードを受賞している。そして、映画祭では、もう一本彼女の出演作に出会うこととなった。聞き漏らしたのかもしれないが、授賞式の際には特に言及はなかったので、望外の喜びであった。


Mrs K Trailer | SGIFF 2016

 

 

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 第10位 『わたしは潘金蓮じゃない』中国(中)[我不是潘金蓮(英)I AM NOT MADAME BOVARY 
 馮小剛監督の新作。娯楽作品としてのクオリティは、それだけでも保証されたようなものだが、本作は地方政府(中央政府も)の保身主義など政治的な内容にも踏み込んでおり、検閲と折り合いをつけながら良い映画を作ろうという意欲が見て取れた。ただ、田舎のシーンが小さい円の中だけに映されるため、主演の范冰冰の顔もはっきり見えなかったのは残念。范冰冰は田舎の女性を受賞している演じるために衣装や言葉遣いなどに苦労した旨がパンフレットに記されているが、正直言ってその点においては『最愛の子』(親愛的)の趙薇ビッキー・チャオのほうが上ではないか、と思った。劉震雲の原作小説は未読だったが読んでみたい。
 ところで、英題はフローベールの「ボヴァリー夫人は私だ」という有名な言葉をもじったもの?


范冰冰從影最大突破演出【我不是潘金蓮】HD最終版中文電影預告


我不是潘金莲 1080p HD国语中字

第9位 『52Hz, I LOVE YOU』台湾(中英題も同じ)
 大ヒット作を連発するウェイ・ダーション魏德聖監督の新作、というわけでこれも安心して見られる完成度の高い映画となっている。ただ、これまでの大作とは異なり、植民地時代や日本という要素は皆無。これまでの監督作と関わりがあるとすれば、それはデビュー作『海角七号 君想う 国境の南』(海角七號)と同じく音楽映画という点。本作は、ミュージカル映画でもある。『海角七号』とのもう一つの共通点は、殆どの出演者の本職がミュージシャンという点だ。本作では、特に宇宙人(バンド名)の小玉、トーテム圖騰のスミンの演技がよかった。楽曲のクオリティも高い。また、『海角七号』のメンバーも多数ゲスト出演。レズビアン・カップルとして登場するサンドリーヌ・ピナ張榕容とナナ・リー李千娜の美しさも際立っていた。あと、映画の中の郵便ポストはたぶんこれ

【台湾】台風でまがった「萌えポスト」が大人気に! - NAVER まとめ

からの連想ですね。
 お正月映画(賀歳片)として作られ、映画もそのような雰囲気に満ちているが、面白いのはお正月映画なのにバレンタインデーがテーマになっていること。旧正月とバレンタインデーが接近している中国語圏ならでは。


《52Hz, I love you》正式預告(2017.1.26 嗨翻新年)

 

 

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李香蘭・山口淑子の出演映画

連日の投稿。
授業の必要もあって、李香蘭山口淑子=Shirley Yamaguchiの出演映画リストを掲げておく。

・蜜月快車(1938満映 上野真嗣)

・富貴春夢(1939満映 鈴木重吉他)

・冤魂復仇(1939満映 大谷俊夫)

東遊記(1939満映東宝 大谷俊夫)下記動画は一部のみ。


「陽春小唄」李香蘭~映画「「東遊記」より~


陽春小唄~映画「東遊記」ラストシーンより~

・鉄血慧心(美しき犠牲 1939満映 山内英三)

・白蘭の歌(1939東宝 渡辺邦男)※ビデオ発売

www.youtube.com

 

 

支那の夜(1940東宝 伏水修)※短縮版『蘇州夜曲』ビデオ発売


映画 『支那の夜』全編(1940・昭和15年) Nights of China,Full movie

孫悟空(エノケン孫悟空 1940東宝 山本嘉次郎)※ビデオ発売


エノケンの孫悟空 前篇  昭和15年


エノケンの孫悟空 后篇  昭和15年

・熱砂の誓ひ(1940東宝 渡辺邦男)※ビデオ発売


熱砂の誓ひ 1940

 

 ・君と僕(1941朝鮮軍報道部 日夏英太郎)

・蘇州の夜(1941松竹大船 野村浩将)※DVD発売


蘇州の夜 昭和16年 監督野村浩将

  

蘇州の夜 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]

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 ・迎春花(1942満映・松竹京都 佐々木康)※DVD発売


李香蘭 1942年 滿映電影 迎春花

 

 

満州アーカイブス 満映作品映画編「迎春花」 [DVD]

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 ・黄河(1942満映 周暁波)

・サヨンの鐘(1943松竹・満映台湾総督府 清水宏)※DVD発売


映画「サヨンの鐘」 昭和18年

 

サヨンの鐘 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]

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 ・誓ひの合唱(1943東宝満映 島津保次郎)

・戦ひの街(1943松竹大船 原研吉)

・私の鶯(1943満映 島津保次郎)※ビデオ発売


私の鶯 1943

 

 ・万世流芳(1943中華電影・満映 卜万蒼他)

野戦軍楽隊(1944松竹京都 マキノ正博)※DVD発売


天涯歌女 - 李香蘭

 

野戦軍楽隊 SYK-166 [DVD]

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 ・兵隊さん(1944朝鮮軍報道部 方漢駿)※韓国でDVD発売


『兵隊さん』/『병정님』

・幸運の椅子(1948日映・東宝 高木俊明)

・わが生涯のかがやける日(1948松竹大船 吉村公三郎)※DVD発売

www.dailymotion.com

 

わが生涯のかゞやける日 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 [DVD]

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 ・情熱の人魚(1948大映京都 田口哲)


情熱の人魚(断片のみ)

・流星(1949新東宝 阿部豊)

・人間模様(1949新東宝 市川崑)※DVDボックス『黎明 市川崑初期作品集』所収 

黎明?市川崑初期作品集? [DVD]

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 ・帰国(ダモイ 1949新東宝 佐藤武)

・暁の脱走(1950新東宝 谷口千吉)※DVD発売

 

 黑泽明专辑の谷口千吉监督 李香兰主演 拂晓的逃脱 暁の脱走 1950 生肉……_土豆_高清视频在线观看(欠落有り)

・初恋問答(1950松竹大船 渋谷実)※DVD発売

  

初恋問答 松竹映画 銀幕の名花 傑作選 SYK-154 [DVD]

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・女の流行(1950松竹大船 瑞穂晴海)

・醜聞(スキャンダル 1950松竹大船 黒澤明)※DVD発売

www.dailymotion.com

 

 

<あの頃映画> 醜聞(スキャンダル) [DVD]

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 ・東は東Japanese War Bride/ East Is East(1952 Bernhard Productions King Vidor)

※DVD発売

www.dailymotion.com

 

www.dailymotion.com

 

東は東 [DVD]

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 ・霧笛(1952東宝 谷口千吉)

・戦国無頼(1952東宝 稲垣浩)

・上海の女(1952東宝 稲垣浩)東宝・新東宝戦争映画DVDコレクション

 

 ・風雲千両船(1952東宝 稲垣浩)

・抱擁(1953東宝 マキノ正博)

・土曜日の天使(1954東宝 山本嘉次郎)

・東京暗黒街・竹の家House of Bamboo(1955 20th Fox Samuel Fuller)※DVD発売

www.dailymotion.com

 

 ・金瓶梅(1955卲氏 王引)

Navy Wife (1956 Allied Artists Edward Bernds)


A Sasebo Silent Night-oh(断片のみ)

・白夫人の妖恋(1956東宝・卲氏 豊田四郎)※DVD発売

v.youku.com

 

白夫人の妖恋  [東宝DVD名作セレクション]

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 ・神秘美人(1957卲氏 華克毅)

アンコール・ワット物語 美しき哀愁(1958東宝 渡辺邦男)

・東京の休日(1958東宝 山本嘉次郎)

・一夜風流(1958卲氏 卜万蒼)

日中戦争中のスパイ表象―『黒豹』テレビ初放送に寄せて

 久しぶりに投稿する。

 今月(2017年2月)と来月に、これまでビデオもDVDも発売されていなかった京マチ子主演の映画『黒豹』が、CS放送「衛星劇場」で初めてテレビ放送される。

www.eigeki.com

これを記念して、鄭蘋如を中心とする日中戦争中のスパイの表象の研究状況について、簡単に整理しておきたい。

私は、以前から、日中混血の女スパイ・鄭蘋如を中心とする日中両国におけるスパイ表象に興味を持っており、萌芽的なものとして「日中混血のディスクール」を『越境するテクスト』に、そして「日本語・中国語双方の文脈における戦争の語りとスパイ像―鄭蘋如を例として」を『帝国主義と文学』に執筆した。

 

越境するテクスト―東アジア文化・文学の新しい試み

越境するテクスト―東アジア文化・文学の新しい試み

 

  

帝国主義と文学

帝国主義と文学

 

  後者の内容は、以下の通り。茅盾『腐蝕』、陳銓の劇作、抗戦期香港・重慶の映画、徐訏『風蕭蕭』や仇章『第五号情報員』の小説と映画化などの中国語圏の代表的なスパイ表象をおさえた上で、鄭蘋如の事件について紹介し、彼女の映画における表象、すなわち『ラスト・コーション(色・戒)』、『諜海四壮士』『上海の月』『上海の女』などにおける描写、加えて『支那の夜』のヒロインとの類似についても言及した。なお、この論文に前後して、日本でも鄭蘋如に関する書籍が二冊出版されたので、興味がある方は参照されたい。

 

美貌のスパイ鄭蘋如(テンピンルー)―ふたつの祖国に引き裂かれた家族の悲劇

美貌のスパイ鄭蘋如(テンピンルー)―ふたつの祖国に引き裂かれた家族の悲劇

 

  

  実は、この段階で気づいていなかったのだが、小泉譲の小説「死の盛粧」も明らかに鄭蘋如をモデルにした小説だ。このことには小泉譲をテーマとする修士論文を2015年度に指導した際に気づかされた。

小泉は満鉄調査部に勤務し、戦時中上海に住んでいた作家。戦後帰国したあとも、中国をテーマとした小説を数多く書いている。「死の盛粧」は以下の本に収められている。

 

南支那海 (1957年)

南支那海 (1957年)

 

 さて、この小泉の小説を映画化したのが、冒頭で述べた田中重雄監督による大映映画『黒豹』(1953)である。修論指導の最中には、この映画を見ることが出来ず歯痒い思いをしたのだが、今回やっと見られることを楽しみにしている次第だ。

 この小泉の小説とその映画化である『黒豹』の存在の発見は、大発見だと思っていた。だが、やはり鄭蘋如をモデルにした『上海の女』(1952)が、デアゴスティーニ・ジャパンの「東宝・新東宝戦争映画DVDコレクション」の一つとして2016年8月に発売されたが、それに付された鈴木宣孝氏の文章でもそのことは指摘されている(「死の盛粧」と『上海の女』類似についても)。「死の盛粧」が『上海の女』のソースの一つであることは疑いなく、『上海の女』と『黒豹』を比較すると何か発見がないか楽しみにしている。

 

  ところで、近年、日本における中国語圏のスパイ表象についての論文が散見されるようになってきた。江上幸子「中国女性スパイの表象―張愛玲『色、戒』のモデルを中心に」『季刊中国』112、2013年はまさに鄭蘋如の表象を扱っている。一方、川島芳子の表象を中心に扱ったものとして、杉野元子「中国語圏映画における川島芳子の表象」(関根謙編『近代中国 その表象と現実』)が出た。あわせて紹介しておきたい。

 

 ※(2017/2/2追記)なお、鄭蘋如をモデルにした小説としては、大薗治夫『上海エイレーネー』が2014年に出ていた。山崎洋子『魔都上海オリエンタル・トパーズ』にも彼女が登場する。

 

上海エイレーネー

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上海エイレーネー

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魔都上海オリエンタル・トパーズ

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ラスト、コーション [DVD]

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ラスト、コーション スペシャルコレクターズエディション [DVD]

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腐蝕 (1961年) (岩波文庫)

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腐蝕 (1954年)

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ニューリズムの悦楽とアジア

  • 輪島裕介さんの快著『踊る昭和歌謡―リズムからみる大衆音楽』が出た。明治期から戦後にかけてのニューリズムを俎上に載せて大胆に分析していくスタイルは健在で、面白く読んだ。

 ただ、日本国内のドドンパとアジアのオフ・ビート・チャチャのように、非常に似たリズムも存在する。してみると、私の興味からは、日本とアジアの共通性(と相違性)をもう少し押さえておきたいとも思った次第である。ということで、揚げ足取りを幾つか…。

  1. 巴里ムーラン・ルージュ楽員
     輪島さんは(ディック・ミネの)「この楽団は「巴里ムーラン・ルージュ楽員」名義で「酒は涙か溜息か」などの古賀政男楽曲を数曲録音しており」としているが、この巴里ムーラン・ルージュ楽員はディック・ミネとは無関係で、パリはムーラン・ルージュ出身と称するフランス人楽団であった。ダンスホール「フロリダ」で修行した彼らは、古賀政男作品をレコードに吹き込んでいる。輪島さんは「古賀メロディーはジャズのモダンさとは異なるが、タンゴの叙情性には確かに通じるものがある」としている。だが、巴里ムーラン・ルージュ楽員が古賀政男作品を多く取り上げていることは、タンゴの叙情性に注目したからという以外に、日本風の楽曲をエキゾチシズムとして消費していたとも捉えることができるのではないだろうか。
     というのも、1937年頃には巴里ムーラン・ルージュ楽員の一員であったアコーディオンのモーリス・デュフォールは東京から上海へと向かっていたからだ。さらには、周璇が歌うハバネラ風味の曲「何日君再来」のレコードで伴奏を務め、さらに歌手の伴奏や器楽曲を20枚以上吹き込んでいるのである(クレジットは杜甫Du Fu)。日本でも淡谷のり子や中野忠晴の伴奏が聞けるが、単身上海に乗り込んで作ったレコードが周璇の「何日君再来」だったというのは興味深い。周璇「何日君再来」を日本に紹介したのは松平晃だったと言われるが、松平はもしかするとモーリス・デュフォールの伴奏を聞いて直感的に彼の伴奏だと感じ取ったのではあるまいか。
     モーリス・デュフォールのその後については、何もわかっていない。中国が戦争へと巻き込まれていく中、失意のうちに帰国したのかもしれない。
  2. 戦後の香港について
    輪島さんの本ではニューリズムの盛衰についてかなりの紙幅が割かれていて、どういうムーブメントが起きていたのかが見て取れるようになっている。日本のレコード会社が仕掛け役となって様々なリズムを売りだそうとしたわけだが、日本と比較すると香港のレコード会社の場合は自然発生的だった気がする。それにしても、マンボ・ブームを先取りした映画『マンボ・ガール(曼波女郎)』は、示唆的なフィルムである。私はチャチャが好き、と歌う「我愛恰恰」などの代表曲は充実していている。だが、サウンドに耳を傾ければ、フィリピン人ミュージシャンの編曲のセンスに心を奪われてしまう。実はこの映画には、フィリピン人ミュージシャンがクレジットされている―戴菲諾Ollie Delfinoである。彼はバンド・リーダー兼ドラマーで、この年、上海~香港で活躍した歌手の張露(1932-2009)と結婚している。映画中では、彼のドラムがフィーチャーされ、マーゴ(馬高)というダンサーと共に「サマータイム」を演奏する。(この映画には張露は出演していないが、西洋の曲を取り入れる際には、Ollie Delfinoの果たした役割は大きかったと思われる。)
  •   『マンボ・ガール(曼波女郎)』は葛蘭Grace Changの主演作で、彼女の名声を不動のものにした作品だが、『マンボ・ガール』以降の楽曲を見ても、「我愛卡力蘇」(私はカリプソが好き)が 続き、「ジャジャンボ」のリズムを使った服部良一作の「說不出的快活」へと繋がっていく。ニューリズムを意識的に取り入れた時期がしばらく続くのである。
  •   ところで、輪島さんも書いているように、香港ダイヤモンド・レーベルはOff Beat Cha Chaを江玲Kong Lingの歌で吹き込んでいる。コロムビアでもOff Beat Cha Chaのレコードは出ているが基本的にインストゥルメンタルであり、ダイモンド・レーベルがボーカル曲としてOff Beat Cha Chaを取り上げたことは意義深かっただろう。
  •   ドドンパと名付けられたのは日本でのことと思われるが、『ビルボード』誌には、DondonpaないしDodompaと(off beat Cha chaとともに)記載されていて、どのような地域でどのように呼び方が分化していったのかについても今後の課題としたい。

  

と、ないものねだりのコメントに終始してしまったが、面白く読んだのも事実である。今後は、日本国内のことだけに注目するのではなく、アジアにおけるリズムものの掘り起こしが重要になってくるような気がしている。

 

踊る昭和歌謡―リズムからみる大衆音楽 (NHK出版新書 454)

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